「有機太陽電池の変換効率はもっと上がる」英LCNが新手法使って分析

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ロンドン・ナノテクノロジー・センター(LCN)が、有機太陽電池向けに、電子常磁性共鳴法(EPR:electron paramagnetic resonance)を利用する新しい分析技術を開発した。従来のX線回折では分からなかった有機系材料の分子配向やクラスター状態を知ることができるという。同手法による分析から、現状の有機太陽電池の材料にまだ改良の余地が多くあり、設計の最適化によって変換効率の向上が期待できることも明らかになってきた。2012年11月27日付けの ACS Nano に論文が掲載されている。

図1 CuPc:C60混合膜のX線回折およびEPRデータ (Marc Warner et al., ACS Nano (2012) doi:10.1021/nn304156e)

EPRは、マイクロ波と試料のスピン(原子の磁気モーメント)の相互作用を利用する分析手法。マイクロ波-スピン相互作用は試料分子の相対的な配向と外部場に依存して決まるため、EPRによって分子の位置を高精度に確定することができる。さらに、EPR信号の形状がスピン同士の近接度に依存することから、試料のクラスター状態についても知ることができる。ほとんどの有機分子は結晶性に欠け、不安定であるため、こうした情報を従来のX線回折から得ることは困難であるという。

今回の研究では、有機太陽電池の材料である銅フタロシアニン(CuPc)とフラーレンC60の混合物について、新手法による分析を行った。その結果、CuPcを電子供与体(ドナー)、C60を電子受容体(アクセプタ)として混合した有機太陽電池で高い変換効率が得られる理由が具体的に明らかになった。

材料組成によって有機太陽電池の変換効率が向上する理由としては、大きく分けて次の2つの説明が考えられる。1つは、ドナー/アクセプタの界面領域が広がることによって電子-正孔対が光励起される確率が高まるというもの。もう1つは、分子配向が変化することによって、キャリア移動の方向が変わり、太陽電池からの電流取り出しに寄与するキャリアが増えるというものである。

そこで研究チームは、CuPc:C60混合膜のEPRデータを分析することによって、実際に有機太陽電池の変換効率向上に寄与しているのがどちらの理由であるのかを考察した。

図1の左列は、(a)CuPc:C60混合膜のX線回折パターン、(c)外部磁場に対して0°および90°の位置におけるEPRスペクトル、(e)EPRスペクトルの分子配向角度依存性を等高線で表した図である。図1の右列(b)(d)(f)では、20nm厚のフタロシアニン(H2Pc)上に成膜したCuPc:C60混合膜について、左列と同じデータを取っている。

図2 EPRスペクトルの分子配向角度依存性 (Marc Warner et al., ACS Nano (2012) doi:10.1021/nn304156e)

 
図2の左列(a)(c)(e)(g)は、実験で測定した各種試料のEPRスペクトルの分子配向角度依存性を等高線図で表している。試料の種類は、(a)混合比50%のCuPc:H2Pc混合膜、(c)20nm厚の有機半導体PTCDA上に形成した混合比50%のCuPc:H2Pc混合膜、(e)カプトン膜上に形成した100%のCuPc膜、(g)20nm厚の有機半導体PTCDA上に形成した100%のCuPc膜であり、膜厚はすべて200nmとなっている。図2の右列(b)(d)(f)(h)は、X線回折から求めた分子分布を基にCuPcのEPRスペクトルをシミュレーションしたもの。それぞれ、(b)交換相互作用なし/PTCDAなし、(d)交換相互作用なし/PTCDAあり、(f)1Kの交換相互作用あり/PTCDAなし、(h)1Kの交換相互作用あり/PTCDAありの場合を表している。

CuPcと基板の間に中間層としてPTCDAを挿入することで、分子配向を制御することができる。このことは、図2(a)と図2(c)の比較からも分かる。

図3 PTCDAの挿入による分子配向の変化 (Marc Warner et al., ACS Nano (2012) doi:10.1021/nn304156e)

 
図3は、分子配向を表すイラストと図2(a)および図2(c)のEPRスペクトル等高線図をセットにしたもの。PTCDA層を挿入していないCuPc:H2Pc混合膜では分子配向が基板に対してほぼ垂直になるが、PTCDA層を挿入した場合には分子配向が基板に対してほぼ水平になることを示している。

一方、図1(e)と図1(f)を比較すると、EPRデータにあまり差が出ないことから、C60混合膜に対してフタロシアニン層を挿入しても分子配向には影響がないことがわかる。また、図2のEPRスペクトルの中で、図1のCuPc:C60混合膜のEPRスペクトルに最も近いパターンを持つのは図2(e)のカプトン膜上に形成した100%のCuPc膜であることから、CuPcにC60を混ぜても分子配向には影響がないと考えられる。

研究チームは、以上の結果から、CuPcとC60の混合膜によって有機太陽電池の変換効率が向上するのは、分子配向が変化するためではなく、ドナー/アクセプタ界面が増加したためであると考察している。図3左のように分子が基板に対して垂直に配向しているとき、ほとんどのキャリアは太陽電池の電極と平行な方向に移動するため、太陽電池の外部に取り出せる電流は限られる。このため、既存の有機太陽電池の材料設計を見直して、分子が基板に対して平行に配向するように最適化すれば、変換効率が上がるはずであると研究チームは指摘する。

また、EPRスペクトルの線幅からは、混合膜中のCuPcの凝集度についての情報が得られる。すなわち、電子のスピンがランダムに分布しているのか、それともクラスター化しているのかが分かる。研究チームは、実験データから、CuPc分子が2個以上集まって積層方向に沿ってクラスター化しているとし、クラスターの大きさについてはカラム方向に分子26個分が上限と推定している。材料組成を制御してクラスター状態を最適化することによって、有機太陽電池の変換効率はさらに向上すると考えられる。


発表資料

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