カリフォルニア工科大、CNTの内部に水が流入していく現象を解明。エントロピー増大則が関与

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カーボンナノチューブの内側に水が自発的に流れ込んでいくという不思議な現象があります。何故こうしたことが起こるのか、これまでよく分かっていませんでしたが、カリフォルニア工科大学の研究チームは最近、この現象の発生機構がエントロピー増大則から説明できることをコンピュータのシミュレーションによって解明しました。高性能な水浄化材料の設計などにも応用できる知見として期待されます。

2.0nm径のカーボンナノチューブの内部に閉じ込められた水分子のシミュレーション画像 (Credit: Caltech/Tod Pascal)

通常の水分子は水素結合によって非常に安定した状態を保っています。このような分子同士の強い相互作用を破るためにはエネルギーが必要です。ナノチューブ内部のような極めて狭い領域に水を流し込むためには、水素結合を断ち切らなければならないため、水がこのようなエネルギーを要する振舞いをすることはなさそうに思えます。

これについて、研究チームの応用物理学者 William Goddard教授は次のように説明しています。

「私たちの研究が示しているのは、この現象が実はある種のトレードオフの関係であるということです。水は水素結合による安定したエネルギー状態を失いますが、その過程でエントロピーを得るのです」

エントロピーは、あるプロセスが自然に発生するかどうかを決める原動力の1つです。エントロピーが表しているのは、特定の状態の下で、ある系が何通りの仕方で存在しうるかということです。ある系が取り得る配置が多ければ多いほど、その系の無秩序性は大きくなり、エントロピーは高くなります。そして一般的に、自然は無秩序な方向へと進んでいきます。

水が理想的な結合状態にある時には、すべての水素結合が分子を固定しており、分子の自由運動を制限して水のエントロピーを低く保っています。一方、Goddard教授とポスドク学生のTod Pascal氏の研究が示しているのは、ある種のナノチューブでは、水がチューブの内部に入り込むことによって得られるエントロピーが、水素結合の切断によってもたらされるエネルギー損失を上回るということです。これにより、水はチューブの内部へ自然に流入するといいます。

研究チームは、0.8~2.7nm径のカーボンナノチューブについて、径のサイズに応じて3つの異なる理由から水の流入現象が起こることを明らかにしました。

最も小さな0.8nm径と1.0nm径のナノチューブでは、水分子はチューブの内側にほとんど一列に並び、気体に近い状態を取ります。液体の水にみられる通常の結合構造は崩れ、水分子はより大きな自由運動ができるようになります。このエントロピー増大が水をチューブ内に引き込みます。

1.1~1.2nm径のナノチューブでは、狭い空間に閉じ込められた水分子が自分から整列し、氷の結晶のような状態になります。このサイズのナノチューブは結晶化した水を収容するのに最適な大きさ(一種のゴルディロックス適合)であるといいます。ここではエントロピーではなく結晶の結合相互作用によって、水はチューブ内に流入しやすい状態になります。

今回の研究で扱っている中では最大サイズの1.4~2.7nm径のナノチューブでは、閉じ込められた水分子は液体の水に近い振舞いをします。しかしながら、ひとたび水素結合が破られると、水分子はチューブ内でより自由に動くようになり、水素結合エネルギーの損失を上回るエントロピーが得られます。

ナノチューブの内部空間は極めて狭いため、研究者が実験的に検証することはできません。このため、Goddard氏とPascal氏は、閉じ込められた水分子の動きをシミュレーションによって研究。スーパーコンピュータを用いた新手法によって、個々の水分子のエントロピーを計算することが可能になりました。こうした計算は以前は困難で非常に時間がかかるものでしたが、2相熱力学モデルと名付けられた新しいアプローチによって、どんな系であっても比較的容易にエントロピーの値を決定できるようになったといいます。

研究チームは、エネルギー・密度・粘性などの特性は通常の水と同じでありながら、水素結合という特徴を欠いた状態の水に関するシミュレーションも実施。この場合、水はナノチューブ内部に流入していかないという結果を得ました。これは、エントロピーの増大局面では、水素結合によりエントロピーを低く保とうとする水の性質が、ナノチューブ内への水の流入を促していることの追加的な証拠であるといいます。

Goddard氏は、水浄化用の超分子の設計にカーボンナノチューブが使えるとしています。カーボンナノチューブと同じサイズの細孔をポリマーに組み込むことで、溶液から水を吸い上げる能力を持たせることができる、というのが彼の考えです。このような応用を可能とするためには、ナノチューブ内の水の移動についてのより深い理解が必要となります。

原文 http://bit.ly/qSgW0r
訳 SJN

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「カリフォルニア工科大、CNTの内部に水が流入していく現象を解明。エントロピー増大則が関与」への1件のフィードバック

  1. カーボンナノチューブと同じサイズの細孔をポリマーに組み込むことで、溶液から水を吸い上げる能力を持たせることができる。サイズだけ考えればいいなら実現は遠くない気がする。

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