東北大学大学院工学研究科の一ノ倉理教授、中村健二准教授、後藤博樹助教が、レアアース磁石を一切用いずに現状のレアアース磁石モータなみのトルクを持つアキシャルギャップ型スイッチトリラクタンスモータを開発した。電気自動車への適用・走行試験などを通じて、実用化に向けた検討を進めるという。
スイッチトリラクタンス(SR)モータは、固定子が鉄心と巻線、回転子は鉄心のみという単純な構造の磁石レスモータで、非常に頑丈で高温に強いという特徴がある。このため、ハイブリッド車や電気自動車用の駆動モータとして期待されているが、同サイズのレアアース磁石モータに比べるとトルクが小さいという問題が指摘されていた。
東北大の研究グループは、鉄-コバルト系の高磁束密度磁性材料を鉄心に使用することによるSRモータの改善をめざしてきた。しかし、コバルトを大量に使用し、コストがかかるため、SRモータの構造を見直し、一般的なラジアルギャップ型(図1)からダブルロータタイプのアキシャルギャップ型(図2、図3)に変更することで、トルクの改善を試みた。さらに、鉄心材料に高コストの鉄-コバルトを使用せず、通常のモータ鉄心材料であるケイ素鋼板を利用することによりコスト削減を図った。
図4の◆は、試作したアキシャルギャップ型SRモータの実測トルク。実線と破線は、同一サイズ(モータ直径266mm、モータ長130mm)、同一極数(固定子18極、回転子12極)でのアキシャルギャップ型とラジアルギャップ型のSRモータのトルク密度対巻線電流密度特性を計算したもの。アキシャルギャップ型SRモータは従来のラジアルギャップ型に比べて大幅にトルクが改善されることがわかる。自動車用モータの出力の目安とされる巻線電流密度 20 [A/mm2] におけるトルク密度を比較すると、アキシャルギャップ型SRモータは 39.6 [N・m/L]で、従来のラジアルギャップ型SRモータの約1.5倍となる。現行のハイブリッド車で報告されているレアアース磁石モータのトルク密度 35~45 [N・m/L@20 A/mm2] に匹敵するトルク密度が達成されたといえる。
これまで磁石レスモータは、レアアース磁石を用いたモータと比べて、トルクや効率が低いと考えられていたが、今回の成果により、モータの構造を工夫することで同等程度の性能を実現できる可能性が示された。今後は、今回開発したモータを、インホイールダイレクトドライブモータとして電気バスに適用。実走行試験などを行って実用化への検討を進めるという。なお、実験に使用したアキシャルギャップ型SRモータの製作には日立製作所が協力している。
発表資料
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