米オークリッジ国立研究所(ORNL)が、グラフェンの結晶中にある不純物原子1個ごとの結合状態を可視化することに成功した。様々な応用分野において、グラフェンのポテンシャルを最大限に引き出すための知見が得られるようになると期待される。2012年11月15日付の Physical Review Letters に論文が掲載されている。
収差補正走査型透過電子顕微鏡(aberration-corrected STEM)を用いて、グラフェン中の不純物シリコンの原子構造および電子構造の研究を行った。実験的手法と計算的手法を併用することで、電子軌道の分類(s、p、d および f 軌道)に基づく原子の結合状態の違いを直接可視化することができるようになった。
今回の研究では、シリコン原子1個がグラフェンの二重空孔部位における炭素原子4個と結合する場合、結合に大きく関与するのはシリコン原子の3d軌道であり、その結果sp2dライクな混成軌道がもたらされることが明らかになった。一方、三配位のシリコン原子では、sp3混成軌道が選ばれるとする。これらの観察結果は第一原理計算によっても確認されているという。
グラフェンの原子構造と電子構造を研究し、不純物の特定を行うことによって、どんな要素を添加するとグラフェンの性能が向上するかをより正確に予測することができるようになると考えられる。添加する不純物の種類を変えてグラフェンの化学組成をわずかに変化させることによって、自動車用排ガス浄化白金触媒の代替材料、電子デバイス、膜など様々な用途に合わせてグラフェンの特性を改善できるようになる可能性もある。また、この技術をグラフェン以外の2次元系材料に適用することもできるという。
発表資料
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