米国標準技術局(NIST)が、DNAを使ってカーボンナノチューブ(CNT)のカイラリティ制御を行う技術を開発したとのこと。電子デバイス用の高性能配線「量子ワイヤ」の実現に向けた応用が期待されます。カイラリティとは、CNTの「巻き具合」を表す特性。六角形格子の単結晶構造を持つグラフェンを筒状に巻くとCNTになりますが、このときの格子方向の巻き具合の違いがカイラリティ。CNTが半導体的な性質を持つか、金属的な性質を持つかは、カイラリティによって決まるため、CNTをデバイスに応用する上でカイラリティ制御は非常に重要な課題とされます。
普通にCNTを成長させるとカイラリティはランダムになり、半導体的CNTと金属的CNTが混在した状態になるため、これらを作り分けたり分離したりするためのいろいろな方法が研究されています。
今回NISTが開発したDNAによるカイラリティ制御法は、DNAを分散剤に用いてCNTを溶液中に分散させるというもの。これを放っておくと、CNTが凝集して黒い塊になりますが、作りたいタイプのCNTと親和性を持つように分散剤の1本鎖DNAを選んであげることで、カイラリティの制御ができるそうです。
2本鎖DNAが形成されるときのように、CNTと1本鎖DNAが対になり、DNAらせんの内側にCNTが接合することでカイラリティが制御されます。この後DNAは、クロマトグラフィなど通常の化学的処理によってCNTから簡単に切り離すことができます。
研究チームの先行研究では、この手法で半導体的CNTを形成できることを実証していましたが、今回、金属的CNTにも同じ手法が適用できることを示しました。金属的性質を持つCNTは「アームチェア型」と呼ばれ、銅配線と比べて10倍超という高い電気伝導度、低損失、6分の1の軽さなどの性質を併せ持った理想的な「量子ワイヤ」の材料になると予想されています。
原文 http://1.usa.gov/oL1HZt
訳 SJN
おすすめ記事
- NIST、マイクロ波光子の周波数重ね合わせが制御可能な超伝導体回路 “optics table on a chip” を開発。新型量子コンピュータへ応用
- NIST、ケーキ型の長尺CNTアレイを開発。テラヘルツレーザー出力測定器のコーティング材に利用
- NISTら、小型の原子磁気センサを使った脳波測定に成功。SQUID並み超高感度センサの低コスト実用化めざす
- NIST、AFM用の光学機械センサ開発。生体から固体まで幅広い試料を高感度測定
