東工大、都心部の気流を解像度1mで広域シミュレーション

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東京工業大学学術国際情報センター(GSIC)の青木尊之教授と小野寺直幸特任助教らが、スパコンTSUBAME2.0を使って、東京都心部の10km四方のエリアに対する超高解像度の気流シミュレーションを行った。実際の建造物のデータをもとにして、1m間隔の格子解像度でシミュレーションした。2012年10月11日、同大 大岡山キャンパス内で気流シミュレーションの動画などをプレス向けに公開した。

東工大教授 青木尊之氏

都市部は高層ビルが密集した複雑な構造をしており、気流(風)はすぐに乱流と呼ばれる状態になる。これを予測するため、1mの格子間隔で水平方向に10240×10080格子、鉛直方向に512格子を用いた約51億点で都市空間を表し、同大のスパコンTSUBAME2.0のGPU 4032個を用いた大規模計算を行った。1m間隔という細かい格子を用いて広範囲の気流計算を行った例は世界でも報告されていないという。

この技術によって、高層ビル背後の発達した渦によるビル風や幹線道路に沿って流れる「風の道」、台風の際の被害などが桁違いの精度で予測できるようになる。排ガス、事故やテロによる有毒ガスなどの汚染物質の拡散も詳細に予測できるとする。また、熱についてのデータを今回同様の解像度で得ることができれば、ヒートアイランド現象の詳細な予測にも応用可能であるという。

動画は上空に風速10mの北風が吹いている設定の下で、都心部(新宿区・渋谷区・目黒区・千代田区・中央区・港区・江東区を含む)に発生する複雑な気流の動きをシミュレーションしたもの。画面右手前が品川駅周辺、左奥が新宿副都心となる。

今回のシミュレーションでは、大規模計算に適した「格子ボルツマン法」を用いて、通常の4次元空間に加えて速度空間も従属変数とする第一原理的なボルツマン方程式を解く方法を使用した。格子ボルツマン法では、気流シミュレーションの単位となる格子における速度空間の自由度(気流を表すモデル粒子が格子空間内を動くときの方向軸の数)を制限することにより、実用的な計算量で精度の高い予測が可能になる。具体的には、下図のように2次元空間なら矢印の8方向+1方向(粒子が動かない場合)の9方向、3次元空間なら同様に18+1=19方向に制限する。こうすることで、単純なアルゴリズムを使えるようになるため計算が効率化される。また、格子内のモデル粒子の移動先が必ず隣接する格子になるため、計算に必要なノード間通信が隣接ノードに限定されるという特徴がある。離れたノード間の通信による計算量の増大を防げるため、将来的に計算規模がさらに大規模化したときも有効な手法であると考えられる。大規模な連立一次方程式を解かずに、短いタイムステップによる時間積分を行うなど、計算の負担を軽くするための様々な工夫が加えられている。

格子ボルツマン法で使われる速度空間の自由度を制限した格子モデル (資料提供:東工大・青木氏)

今回のシミュレーションで用いた計算格子 (資料提供:東工大・青木氏)


格子ボルツマン法自体は、自動車の空力計算用ソフトなどで商用利用されている手法だが、今回の研究の新規性としては、格子ボルツマン法に「コヒーレント構造スマゴリンスキーモデル」を導入したことが挙げられる。大小さまざまな渦構造が分布する乱流のシミュレーションでは、格子よりも大きなサイズの渦については実際に計算できるが、格子解像度以下(今回の場合は1m以下)の小さな渦についてはスマゴリンスキーモデルを使ってエネルギー散逸のモデル化を行うことで予測精度を上げることになる。このモデル化を行うにはモデル係数を決定する必要があるが、現在広く使われている動的スマゴリンスキーモデルでは広い領域でのモデル係数の平均化を行うため、多くのノード間で通信が発生し、大規模計算には適用できないという問題があった。そこで、大規模計算にスマゴリンスキーモデルを適用できるようにするため、平均化を行わずに乱流の渦構造から局所的にモデル係数を決定できるコヒーレント構造スマゴリンスキーモデル(慶應大学の小林宏充教授が2005年に提案)を格子ボルツマン法に取り入れた。これによって、現実的な処理時間での大規模計算が可能になった。

新宿・東京都庁周辺の気流 (資料提供:東工大・青木氏)

上空から俯瞰した都庁周辺の気流 (資料提供:東工大・青木氏)

 
今回のシミュレーションでは、4032個のGPUを用いて600テラフロップス(単精度計算)の実行性能が得られた。GPUの消費電力が少なくてすむため、電力効率が1W当たり545ギガフロップスと少ない電力で目的の計算結果を得ることができたという。


発表資料

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「東工大、都心部の気流を解像度1mで広域シミュレーション」への1件のフィードバック

  1. 記事中、慶應大学の小林宏充教授がコヒーレント構造スマゴリンスキーモデルを提案した時期を「1996年」としたのは誤りで、正しくは「2005年」でした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。

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