英ウォーリック大学と東北大学の研究チームが、ランダウ準位の可視化にはじめて成功したとのこと。ランダウ準位は、強磁場中での電子の挙動を決定する量子エネルギー準位であり、ノーベル賞物理学者レフ・ランダウが1930年に提唱した概念。2012年9月12日付の Physical Review Letters オンライン版に論文が掲載されている。
走査トンネル分光(電子と直接相互作用する空間分解能プローブ)を用いて、半導体表面におけるランダウ準位の環状の内部構造を画像化した。通常は、材料固有の乱れのため不鮮明なドリフト状態の観測しかできないが、今回の実験では空間分解能を上げることでこれを克服した。
ランダウは、クリーンな系において電子が同心円を形成し、エネルギー準位に応じて同心円の数が増えると予想していた。実験で得られた画像は、ランダウの予想が正しいことを明確に示すものとなっている。
電子のこうした挙動は、量子ホール効果と呼ばれる現象の基礎を形づくっている。量子ホール効果とは、高純度のシリコンやガリウム砒素などを極低温で強い磁場のかかった状態に置いたとき、ホール抵抗が一定となる領域(プラトー)が出現し、同時に磁気抵抗がゼロになるというもの。
プラトーにおけるホール抵抗は、h/ve2(e は電荷素量、h はプランク定数)と表され、材料の大きさや性質に依存せず一定である。このため今日では、とくに v = 1 のときのホール抵抗 h/e2 = 25812.806 Ω が標準抵抗値として利用されている。また、国際度量衡委員会(CIPM)が中心となって検討が進んでいるキログラムの再定義においても、量子ホール効果が採用される可能性がある。
ウォーリック大の物理学教授 Rudolf Roemer 氏は、「現実の物質中での個々の電子の量子力学的波動関数をはじめて実際に目にしていることになる。エキサイティングな成果だ」とコメント。「これは一見、日常生活からかけ離れたものに見えるかもしれないが、現在議論されている1kgをどう定義するかという問題にも関わっている。ランダウ準位の同心円の間隔が、普遍的な重さのための一種の指標として機能するからだ。今度ケーキを焼くために砂糖の分量を測るとき、人は意識せずにこれらの量子の環を使うことになるかもしれない」と話す。
発表資料
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