テルアビブ大学と中国科学院・上海薬物研究所が、光の照射によって超伝導体の超伝導転移温度 Tc を制御できることを実証したとのこと。2012年4月12日付の Angewandte Chemie に論文が掲載されている。

銅酸化物表面に(a)カルボキシフラーレン/量子ドット複合体、(b)アゾベンゼン誘導体、(c)ポルフィリン-ナノチューブ複合体を自己組織化的に成膜して光を照射。グラフはアゾベンゼン誘導体を用いた場合のTcの変動 (出所:テルアビブ大学)
高温超伝導の研究では、超伝導状態への相転移が起こる超伝導転移温度 Tc を化学的ドーピングによって制御する手法が主流になっている。銅酸化物系超伝導体などある種の材料では、酸素イオンの出し入れなどによって Tc が上昇することが知られている。
一方、テルアビブ大 物理学教授 Yoram Dagan 氏らのグループは今回、化学的ドーピングとはまったく異なる光を用いたアプローチで Tc の制御が可能であることを実証した。
厚さ50nm程度の銅酸化物表面上に、有機分子1個分の厚さの単層分子膜を自己組織化的に成膜した。有機分子膜としては、カルボキシフラーレン/量子ドット複合体、アゾベンゼン誘導体、ポルフィリン-ナノチューブ複合体の3種類を用いた。これらに光を照射し、Tc など超伝導体の特性への影響を調べた。
カルボキシフラーレン/量子ドット複合体を成膜した場合、Tc は上昇したが光の作用は認められなかった。アゾベンゼン誘導体では、紫外線を照射すると Tc が上昇し、可視光を照射すると低下した。ポルフィリン-ナノチューブ複合体では、光を照射すると Tc が上昇し、光を消すと再び低下した。
光が照射されることによって、銅酸化物から単層分子膜への電荷移動または光に起因する分極が生じ、電荷密度が変化することで Tc の変動が起こると考えられている。このプロセスは光の照射を止めると元に戻る可逆的なものであるという。可視光の照射によって上昇する Tc は2K程度であるとする。
Tc の変動量は小さいが、その結果もたらされるデバイスからの反応は大きいと Dagan 氏は指摘する。光による Tc 制御を利用することで、排熱などのエネルギー消散がない電気的スイッチやメモリデバイスを作れる可能性があるという。
発表資料
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