日本電子、リチウムイオン電池の製造工程に対応した分析技術

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日本電子は、電子光学機器や分析機器などの精密理科学機器、計測検査機器、半導体関連機器、産業機器、医用機器などの分野で事業を展開している。本稿では、同社の蛍光X線分析装置(XRF)、X線光電子分光分析装置(XPS)、オージェ電子分光分析装置(AES)、走査電子顕微鏡(SEM)、核磁気共鳴装置(NMR)などを用いたリチウムイオン電池の分析技術についてまとめる。電極材料の調合、塗工、セパレータ積層、電解液注液など、リチウムイオン電池の主要製造工程に対応した各種分析装置が用意されている。

正極材の分析技術

AESによる電極材の表面分析。場所によってリチウムの存在にバラつきがあることが分る (出所:日本電子)

正極材の平均的な組成のスクリーニングには、XRFを使用する。XRFでは、試料にX線を照射したときに試料から返ってくる蛍光X線を調べて試料の元素分析を行う。測定領域が比較的広く、バルクでの試料の分析が行えるという特徴がある。検出感度としては、酸化リチウムを主成分とした試料では、コバルト、マンガン、鉄などの元素の存在を数ppm程度から検出できる。

XPSは、試料にX線を照射したときに励起されて出てくる光電子の速度を測定することによって原子の結合状態を分析する手法である。試料の表面下数nmを分析する表面分析装置であり、リチウムイオン電池の分析では、試料表面におけるリチウムの有無を直接確認するために使われている。また、化学結合によってリチウム原子内の一部の電子が酸素に奪われることにより、XPSのピークがシフトするため、このシフトを観察することによって、炭酸リチウム、リン酸リチウムなど、リチウムの化学結合状態についても知ることができる。

AESも試料の表面分析に用いられる。XPSがX線を用いるのに対して、AESでは試料に電子線を照射するため、より微小な領域を分析することができる。最近のAESによるリチウムイオン電池の観察で分ってきたのは、正極材を構成するリチウムやコバルトなど電極表面に存在する各元素が、従来考えられていた程には均一に分布していないということだという。AESを使ってリチウムイオン電池の正極に用いられる粉末材料を反射電子検出器で確認すると、平均原子番号の違いによる明暗のコントラストが見られることがある。そのコントラストの違いに注目してオージェ分析を行うと、明らかなLi検出濃度の違いがあり、リチウムがたくさん集まっている場所は暗く、リチウムが存在しない場所は明るく見えているのが視覚的にも明確に分る。このような材料内での顕著なバラつきは、局在するリチウム原子を検出できない他の分析手法では知ることができないものであった。こうした材料レベルのバラつきの存在が、電池性能のバラつき、理論性能に届かないといった問題にも影響していると考えられる。このため、同社では今後、電極材料の調合など電池製造プロセスの上流での工程に対して、AESを使った検査の導入を提案していきたいという。

また最近では、最新の電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を使ってAESによる表面の組成分析と同様の観察が短時間で簡易に行えるようになっており、正極材・負極材の組成分析などに利用されるケースが増えているという。一般に、数kV以上の加速電圧の電子線を試料にあてたときに反射電子が返ってくる確率は、平均原子番号が大きいほうが高く、平均原子番号が小さいほうが低くなることが知られている。この反射電子像を利用すると、およそ表面に存在する元素の種類を反射電子像のコントラストとして表すことができる。低加速電圧の電子線を用いた場合には、二次電子と反射電子の運動エネルギー差が小さくなるため、正確な反射電子像を得ることが難しくなるが、近年の検出器の改良により、最新のFE-SEMでは100V程度の低加速電圧でも可能となっている。さらに、FE-SEMにエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を付加することで、1つの試料に対してFE-SEMの観察像とEDSによる分析を同視野で行い、2つの結果を重ね合わせるといった手法も可能になっている。

セパレータの分析技術

FE-SEMによるセパレータの撮像例 (出所:日本電子)

 
セパレータの観察には、FE-SEMが最も適しているとされる。FE-SEMを使うと、試料表面の孔のサイズやセルロース繊維の太さなど、詳細な表面形状観察が行える。さらに、表面だけでなく、試料内部の情報も得ることができるため、セパレータ内部にある三次元的な構造の観察が可能になる。

ただし、セパレータは電子線に弱いという材料的な問題がある。セパレータに電子があたるとセルロースが収縮し、構造が壊れてしまう。このため、FE-SEMでは、セパレータにダメージを与えないように電子線の加速電圧を低く設定する。細く絞った直進性の強いビームによって極狭い領域をピンポイントで観察する。最新型のFE-SEMでは、100V程度の低加速電圧でも倍率数十万倍の高精細な撮像ができるようになっている。

SXESの開発動向

電子プローブマイクロアナライザへのSXESの実装 (出所:日本電子)

 
日本電子は、科学技術振興機構(JST)の研究開発事業として産学連携で実施されている軟X線発光分析システム(SXES)の共同開発にも参加している。

SXESは、エネルギー分解能0.3eVという高分解能によってリチウムなどの軽元素を高感度マッピングし、元素同士の結合状態の分析も可能にするもの。これからのナノデバイス・新規材料開発には欠かせない分析ツールとなるという。日本電子の他、東北大学多元物質科学研究所 寺内研究室、日本原子力研究開発機構(JAEA)、島津製作所が共同開発の実施者となっている。

この産学連携プロジェクトにより、不等間隔のパターンを持たせた高感度検出用回折格子を開発した。検出器には背面照射型CCDを採用。日本電子がこれらを電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)に実装することで製品化を行った。最大面積90mm×90mmでの広域元素マッピングが可能となっており、リチウムイオン電池負極材の分析では、カーボン中のリチウムのKバンド・スペクトルのマッピングによって、充電の有無を明瞭に識別できることが報告されている。(取材・執筆 / 荒井聡)


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