英NPLら、常温常圧メーザーの開発に成功

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英国立物理学研究所(NPL)とインペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームが常温常圧で動作する固体メーザー(MASER: Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiation)の開発に成功したとのこと。メーザーはレーザーのようにビーム状に絞られたマイクロ波を生成する技術であり、工業、医療、科学計測など幅広い分野への応用が期待できる。2012年8月15日付 Nature オンライン版に論文が掲載されている。

マイクロ波を増幅して絞られたビームにするメーザーのコア部分。サファイアのリングが赤みがかったピンク色の結晶を包んでいる (出所:National Physical Laboratory)

メーザーの歴史はレーザーよりも古く、最初の装置が開発されたのは今から50年以上前に遡る。しかし、動作環境が高真空または絶対零度近い極低温であること、さらに多くの場合、大型の磁石による強い磁場をかける必要があるといった理由から、その実用化は進んでこなかった。

従来のメーザーでは、マイクロ波を増幅するためにルビーなどの結晶材料が使われてきた。これに対して今回の研究チームは、p-テルフェニルにペンタセンをドープした材料を導入した。ルビーをペンタセン添加p-テルフェニルで代替することで、ルビー同様のメーザー生成プロセスを常温・常圧で行うことが可能になった。また奇妙なことに、通常は透明なp-テルフェニルが、ペンタセンをドープすることによってルビーによく似たピンク色に発色するという。

論文によると、今回のメーザーは常温・常圧・地磁気下の環境において周波数1.45GHz程度での動作・増幅ができるという。オシレータとして調整された固体メーザーの出力測定結果は-10dBmW程度となっており、これは同程度の周波数(約1.42GHz)で動作する水素メーザーのほぼ1億倍の出力に相当する。

メーザーの応用分野としては、より高感度な医療用計測器、爆発物の遠隔検知が可能な化学センサ、量子コンピュータ用の低雑音データ読み出し装置、地球外生命探査に使用可能な電波望遠鏡など、様々な用途が考えられるという。

ただし、今回開発されたメーザーはパルスモードに限られており、極めて短い時間しか作動しない。このため、研究チームでは現在、メーザーの作動時間を延ばすことに取り組んでいる。また、マイクロ波の周波数についても、現状の狭帯域からレンジを広げることにより、より利用価値のある技術をめざすとする。長期的な研究としては、ペンタセン添加p-テルフェニル以外の材料を見つけることで常温常圧メーザーの消費電力を下げることも課題となる。さらに、メーザーの小型化・ポータブル化を進めるための新たなデザインを作り出すことにも注力していくという。


発表資料

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