マサチューセッツ工科大学(MIT)、テキサス大学オースティン校と中国・浙江大学の研究チームが、メタマテリアルを用いた光アイソレータの開発に成功したとのこと。光コンピュータの実現に必要な光アイソレータの小型化につながる成果であるという。2012年7月30日付の米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に論文が掲載されている。
光アイソレータは、一方向からしか光を通さない光学素子であり、電子の代わりに光による信号処理を行う光コンピュータには不可欠な要素とされる。現在の光通信ネットワークでも、光が後方に反射することによって生じる信号干渉を防ぐために光アイソレータが用いられているが、イットリウム・インジウム・ガーネットといった特殊な材料を使うこと、材料に磁場をかける必要があるためデバイスの小型化が困難などの問題がある。また、光の後方への散乱を防ぐ際に光アイソレータ自体が光を吸収することで、前方に向かう信号強度が減衰してしまう。こうした課題があるため、光コンピュータチップに組み込み可能な小型の光アイソレータは、これまでのところ実現していない。

図Aは、時間反転対称性のあるキラル媒質。光の進行方向によってファラデー回転の方向が変わらないので光アイソレータとしては使えない。図Bは、時間反転対称性のないジャイロトロピック媒質。光の進行方向が逆になるとファラデー回転が反転するので光アイソレータとして利用できる(John D. Joannopoulos et al., PNAS(2012) doi: 10.1073/pnas.1210923109)
既存の光通信用の光アイソレータでは、磁界をかけたときに光の偏光面が回転するファラデー効果が利用されている。光アイソレータとして使用できる媒質は、光の進む方向が順方向なのか逆方向なのかによって、ファラデー効果による偏光面の回転(ファラデー回転)が逆転する性質を持っており、時間反転対称性のないジャイロトロピック媒質と呼ばれている。ジャイロトロピック媒質の両端に適切な偏光角度を持たせた偏光子AおよびBを設けると、入力端の偏光子Aを通過して順方向から入射した光は出力端の偏光子Bを通過することができる。一方、偏光子Bを通過して逆方向から入射した光は、偏光面が逆回転するため偏光子Aを通過できずに遮断されるので、光アイソレータとして機能する。
今回報告された技術は、メタマテリアルを利用することによって、外部から磁界をかけることなく媒質に時間反転対称性のないジャイロトロピックな性質を持たせるというもの。外部磁界が不要になることに加え、一般的な金属材料が使用できるため、コンピュータチップへの組み込みが容易になるという。
メタマテリアルによる光アイソレータは、+z方向に信号を流す金属部品2個と-z方向に信号を流す金属部品2個の合計4個の部品で1つの単位セルが構成される。それぞれの金属部品は、ジグザグに折れ曲がったワイヤが組み合わさったもので、各ワイヤが水平および垂直方向にアンテナを形成している。メタマテリアルの表面側にある水平アンテナは底面側の垂直アンテナに接続、表面側の垂直アンテナは底面側の水平アンテナに接続される。アンテナ間に増幅回路が配置されており、この回路を流れる電流の向きによって、電磁波の伝搬する方向が決まるという。
試作されたデバイスでは、1インチ程度離した2枚の回路基板上にアンテナのペアが形成されており、かなり大型になっているが、アンテナを小型化してシリコンチップ上に組み込むこと自体は技術的にそれほど難しくないとのこと。デバイスの動作周波数は、増幅回路のトランジスタのスイッチング速度によっても制約されるが、可視光の領域でメタマテリアルを機能させるために必要な高速スイッチングができるトランジスタの設計についてはまだ分かっていない。非線形光学を使った方法などが検討されているという。
発表資料
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