NRL、グラフェンを使った磁気トンネル接合の作製に成功。優れたトンネルバリア性能を実証

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アメリカ海軍研究所(NRL)が、グラフェンをトンネルバリアとして利用する実験に成功したとのこと。トンネルバリアは、2つの導電材料を電気的に隔てるエネルギー障壁。電子はこのバリアを量子力学的に通り抜けることができる。2012年5月14日付の Nano Letters に論文が掲載されている。

グラフェンを利用した磁気トンネル接合(MTJ)の模式図とトンネル磁気抵抗(TMR)のグラフ (出所: U.S. Naval Research Laboratory)

研究チームは今回、2つの強磁性金属層を隔てるバリアとしてグラフェンを用いた磁気トンネル接合(MTJ: magnetic tunnel junction)をフォトリソグラフィのプロセスで作製。電荷を利用するエレクトロニクスデバイス、電子のスピンを利用するスピントロニクスデバイスのいずれについても、単層グラフェンがトンネルバリアとして有効に機能することを実証したという。トンネルトランジスタ、不揮発性磁気メモリ、再プログラム可能なスピンロジックデバイスといった高機能なナノスケール回路を実現するグラフェンデバイスが可能になると期待できる。

これまで電子デバイスへのグラフェン応用については、グラフェンの面内方向に電流が流れる導体または半導体として利用する研究が中心だった。一方、今回の研究では、グラフェン平面に対して垂直方向に電流を流したときにグラフェンが優れたトンネルバリアの働きをすることを明らかにした。また、このときトンネル電流のスピン偏極が保持されることも分った。今回の研究が「センサ、メモリ、ロジックなどの先端デバイスで使われるMTJ用のトンネルバリア技術にパラダイムシフトをもたらす」とNRLの研究者 Berend Jonker 氏は説く。

エレクトロニクス、スピントロニクスの両分野で、トンネルバリアは多くのデバイスの基礎となるもの。極薄かつ無欠陥のバリアの作製は、材料科学が取り組む課題の1つとなっている。代表的なトンネルバリアは、酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなどの金属酸化物を利用するものだが、膜厚バラつき、ピンホール、欠陥、電荷トラップなどによる性能と信頼性の低下が問題となる。

酸化物ベースのトンネルバリアには、いくつかの限界があり、これが将来的なデバイス性能を制約することになるとされる。例えば、酸化物トンネルバリアは面積抵抗(RA: resistance-area product)が高いため、消費電力増大や局所的加熱などを招く。また、界面において相互拡散が起こることで性能が低下し、致命的な故障につながる可能性もある。膜厚の不均一性によって、電流輸送におけるホットスポットが生成されるという問題もある。

これとは対照的に、グラフェンは、もともとの材料特性から理想的なトンネルバリアになると Jonker 氏は説明する。グラフェンは化学的に不活性であり、高温での拡散に対しても不浸透であるといった特性がある。原子1個分の厚さしかないため、RAと消費電力を最低にしつつ、最速のスイッチング速度を実現できる究極のトンネルバリアになるという。

掲載図左側は、グラフェンを利用した磁気トンネル接合を模式的に表したもの。コバルト(赤)と鉄ニッケル合金パーマロイ(青)の間にグラフェンが挟まって2つを隔てており、それぞれの薄膜の磁化方向が平行または逆平行に揃うことで、抵抗が変化する。これをトンネル磁気抵抗(TMR)と呼んでいる。右側のグラフは、磁界の印加によって相対的な磁化配向が変化するときのTMRをプロットしたもの。室温以上の温度条件でもTMRがよく持続しているのが分る。MTJは、HDDの読み取りヘッドに広く利用されており、次世代不揮発性メモリであるMRAMの記憶要素としても使われ始めている。


発表資料

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「NRL、グラフェンを使った磁気トンネル接合の作製に成功。優れたトンネルバリア性能を実証」への6件のフィードバック

  1. それにしても日立金属さんの自己潤滑性工具鋼、SLD-MAGICのトライボロジー特性はインパクトがある。ここは戦時中、国産初のジェット戦闘機のエンジン、ネ-20を海軍航空技術廠が開発しようとして、かじり(凝着、焼付き)に苦しんでいた時にここの安来工場が新合金を開発して、なんとか実用化に成功したとのこと。この技術を復活させたのが今回の高性能工具鋼なのかもしれませんね。

  2. >自動車技術者さん
    先日、その工具鋼の自己潤滑性とかいう話を日本トライボロジー学会で聞いたが、モリブデンとかカーボン、それにDLCコーティングなどの怪しげな論説とも整合し、油中添加剤の極圧効果にも拡張できる話は高度かつ面白かった。こりゃ一種のナノマシンですね。

  3. そういうことだったのか。この材料、ハイテン用のプレス金型に広がっていて、カジリはなぜ抑えられるか業界中の謎だった。このようなナノメカニズムが働いていたんですね。しかしながら、固体材料の頂点である工具鋼に自己潤滑性があるとはなんとも無敵な話ですね。

  4. その物質グラファイト層間化合物っていうんでしょ。この材料、ハイテン用のプレス金型に広がっていて、カジリはなぜ抑えられるか業界中の謎だった。このようなナノメカニズムが働いていたんですね。しかしながら、固体材料の頂点である工具鋼に自己潤滑性があるとはなんとも無敵な話ですね。

  5. >塑性加工業さん
    興奮して二度押ししましたね。まあ気持ちはわからないでもないです。自動車のメカニックマニアの間でもエンジン部品の素材として結構ウケているらしいですからね。

  6.  なんかむかしNHKのプロジェクトXでここの「たたら製鋼」復活の話がありましたよね。
    島根県の安来奥出雲地方は今雪深いのでしょうか?中島みゆきの「地上の星」のメロディーが聞こえてきそうです。

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