失明状態から視力を回復させる化学物質、カリフォルニア大バークレー校らが開発

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カリフォルニア大学バークレー校、ミュンヘン大学、ワシントン大学らの研究チームが、失明したマウスの視力を一時的に回復させる効果のある化学物質を発見したとのこと。将来的には、退行性の失明者の視力が回復できる可能性があるという。2012年7月26日付の Neuron に論文が掲載されている。

遺伝子異常で視力を失ったマウスの眼。左は、処置をしていないマウス。瞳孔は光に反応しない。右は、フォトスイッチとして働く化学物質を注入したマウス。ある程度視力を回復しており、光の照射によって瞳孔が収縮する (出所:カリフォルニア大学バークレー校)

今回の研究は、遺伝性の網膜色素変性や加齢に伴う黄斑変性による退行性の失明を治療する技術につながる可能性がある。網膜色素変性も加齢黄斑変性も、網膜中の感光性細胞(桿体および錐体)が死に、眼球の光受容体が機能しなくなる症状。報告された化学物質は、AAQ(acrylamide-azobenzene-quaternary ammonium)と呼ばれるフォトスイッチの一種であり、網膜細胞表面のタンパク質イオンチャネルに結合する性質がある。AAQがイオンチャネルと結合すると、網膜上にあって通常は光を感知しない細胞が、感光性に変わる。AAQが光に応答して、イオンチャネルを通過するイオン流を変化させ、桿体および錐体が光によって活性化するのとほぼ同じように視神経を活性化するという。

研究リーダーの分子細胞生物学教授 Richard Kramer氏によると、AAQの働きは局部麻酔に似ているという。イオンチャネルに組みこまれた局部麻酔薬はその場に長くとどまり、その間ヒトの神経は無感覚になる。AAQが局部麻酔と異なる点は、光への感受性があるため活性のスイッチングが可能なこと。このため、神経活動をオンオフすることができる。

AAQはやがて徐々に消えていくため、遺伝子治療や幹細胞治療のように網膜を恒久的に改変するタイプの視力回復法に対するより安全な代替法になるかもしれないという。また、光感知チップを眼球内に埋め込む方法と比べて、非侵襲的であるといえる。

「この方法の長所は、シンプルな化学物質を使っているため投薬量を変えたり、他の治療法と組み合わせて使用することができる点にある。また、効果が気にいらなければ治療を中断することもできる。AAQを改良した化学物質が製品化されれば、医師が患者に処方することもできるようになる。チップの移植手術や遺伝子改変治療ではこういうわけにはいかない」とKramer氏は話す。

実験に使われたマウスは、生後数か月で桿体および錐体が失われ、眼球内の光色素が不活性になる遺伝子異常を持っていた。極めて微量のAAQを盲目マウスの眼球に注入した後、眩しい光の中でマウスの瞳孔が収縮した。また、マウスが光を避ける行動をとるようになった。このことから、研究チームはマウスの光感受性が回復したことを確認できたとする。Kramer氏は今後、AAQの新しいバージョンを使って、げっ歯類のより高度な視覚テストを行いたいという。

視力回復に利用できるフォトスイッチ分子は、8年前にKramer氏らが開発していた。このときのフォトスイッチは、紫外光があたるとカリウムイオンチャネルが開き、緑色光で閉じることで視神経の活性をオンオフするものだった。カリウムイオンチャネルは、フォトスイッチが結合しやすくなるように遺伝子改変されていた。一方、今回の論文で報告されたAAQは、カリウムイオンチャネルの遺伝子改変を行わずにチャネルに結合させることができる。

現在テスト中である新バージョンのAAQは、さらに改良されており、強度を緩めた青緑光を使って神経が活性化される期間を従来の数時間から数日間に伸ばしている。また、暗いところではフォトスイッチが自然に不活性になるので、スイッチオフするための2番目の光は必要ないという。


発表資料

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