【第3回TIA-nanoシンポ報告】KEKの加速器が拓く新たなナノテク研究に期待

このエントリーをはてなブックマークに追加
Share on Facebook

「第3回つくばイノベーションアリーナ公開シンポジウム」が2012年7月19日、学術総合センター(東京・神田)で開催された。つくばイノベーションアリーナ(TIA-nano)は、つくば市に拠点を持つ産業技術総合研究所(産総研)、物質・材料研究機構(NIMS)、筑波大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)の中核4機関が連携し、ベルギーIMECや米国アルバニーナノテクなどと並ぶ世界的なナノテクノロジー研究拠点の構築を進める取り組み。2009年に産総研・NIMS・筑波大の3機関によって設立され、2012年4月からKEKが参加している。

KEK施設の鳥瞰図(出所:KEK)

シンポジウムでは、これまでのTIA-nanoの活動成果について様々な報告が行われたが、その中でも特に注目を集めたのが、新たにTIA-nanoに加わったKEKの役割についての議論だった。大型の加速器施設を保有するKEKが参加したことで、TIA-nanoの研究体制の独自性は今後大きく高まると期待される。以下、本稿では、KEK理事 野村昌治氏「TIAにおける高エネルギー加速器研究機構」、KEK素粒子原子核研究所教授 幅淳二氏「TIA-nanoにおけるナノ計測技術革新の可能性」の講演内容を報告する。

ナノテク研究ツールとしての放射光

KEK理事 野村昌治氏

野村氏は、「世界の放射光施設の多くに、ナノ物質研究施設が併設・近接されている」と指摘。米アルゴンヌ国立研究所における放射光施設APS(Advanced Photon Source)とナノスケール材料センター(Center for Nanoscale Materials)、ブルックヘブン国立研究所のNSLS(National Synchrotron Light Source)と機能ナノ材料研究センター(Center for Functional Nanomaterials)、欧州ESRF(European Synchrotron Radiation Facility)とナノエレクトロニクス技術研究所(Institut de Recherche Technologique NanoElectronique)などの例を挙げ、「ナノ物質創成と評価が密接に関係し、放射光が有効なツールであることを示している。各国とも戦略的に研究開発拠点、解析拠点を配置している」とした。

放射光を活用することで、より多くの高精度なデータを短期間に取得できるため、研究開発スピードの加速が期待できる。特に、電子顕微鏡のような真空を必要としないため、in-situ(その場)でのリアルタイムな観察を行えるという特徴があり、ナノバイオ分野の研究や作動中の電池のその場解析といった用途で効果を発揮すると考えられる。

KEKでは、TIA-nanoに参画する以前から、放射光を使ったナノスケールでの材料・デバイス分析などを他機関と共同で行ってきた。これまでにも、SiC結晶中の転位をX線トポグラフィーによって非破壊かつ広範囲に観測する技術や、微量軽元素の電子状態・配位数・結合距離などを軟X線吸収分光によって測定する超伝導トンネル接合検出器の開発といった成果を上げている。今後はTIA-nanoを中心にKEK施設の共同利用を促進することにより、ナノテクやライフサイエンス分野における放射光を使った研究開発をさらに進めていくという。

新加速器ERLに期待

KEK素粒子原子核研究所教授 幅淳二氏

KEKでは現在、ERL(Energy Recovery Linac: エネルギー回収型線形加速器)と呼ばれる新しい加速器の建設が計画されており、ERLの実証を行うための実験設備「コンパクトERL」の建設が始まっている。ERLが実現すると、従来の放射光をはるかに上回る高輝度・短パルスの放射光を得ることができるようになる。この高品質な放射光の利用によって、ナノ領域での研究開発が大きく進展すると期待されている。ERLについて、幅氏から技術概要の解説があった。

ERLの外見的特徴は、これまでの円周形の加速器に替わり、歪んだ形状の加速器となっていることである。円周形ではなく歪んだ形状となる理由は、直線状の線形加速器を周回の中心に据えているため。

線形加速器では、超伝導空洞の内部に高周波の電場の波が進行している状態が作られる。高周波の電場とのタイミングを取って電子銃から電子が入射されると、電場に乗った電子が加速され続けて線形加速器の終端に到達。加速された電子は、放射光を出しながら加速器のリングを周回する。電子銃の性能がよければ、非常にシャープに絞られた電子を入射することができ、その結果、極めて高品質な放射光を得ることができる。

ERLの仕組み(出所:KEK)

従来の加速器は、加速された電子をリング上でぐるぐる周回させて使う仕組みで、蓄積型加速器と呼ばれている。このタイプの加速器の問題点は、電子が周回を続けるうちに放射光の質がだんだん落ちてくるところにあった。この問題を解消するため、エネルギー回収型であるERLでは、1周目で高品質な放射光を出した後に線形加速器に戻ってきた電子を、加速フェーズではなく減速フェーズの電場の波へと入れこむ。電子はここで減速され、エネルギーを空洞へと戻す。

計画されているERLでは、最初に3GeV(キガエレクトロンボルト)のエネルギーを持っていた電子が、減速時にエネルギーを回収され、10MeV(メガエレクトロンボルト)の低エネルギーに落としたところで廃棄される。回収されたエネルギーは次に入射される電子の加速に利用される。このようにして常に新しい出来立ての電子を周回させることで高品質の放射光を得ることができるという。

ERLの高品質な放射光を使うことによって、物質科学・生命科学の分野では、バルクの静的な平均情報ではなく、動的な局所情報を得られるようになると考えられる。例えば、ナノビームによる超高速時間分解能での測定を行うことによって、高温超伝導にも関係している強相関電子の創発現象の理解が進むと期待できる。また、ナノ粒子の局所的な部位で起こるとされる触媒反応の開発・評価や、細胞中の物資伝達機構の3次元動画観察なども、ERLの放射光が効果を発揮する分野であるという。

SOIピクセルセンサの開発状況

SOIピクセルセンサの概念(出所:KEK)

ERLからの放射光を受ける撮像系の技術も非常に重要になってくる。KEKでは、X線の高感度検出技術として、SOIピクセルセンサの開発を進めている。これは、シリコン層の下にSiO2絶縁層を埋め込んで表面の極薄シリコン層にトランジスタを形成するSOI(Si on Insulator)デバイスを応用したセンサである。

絶縁層の下の厚いシリコン(通常のSOIデバイスでは支持層となる部分)が、X線を検出する受光部として利用される。下部シリコンで検出した信号を、絶縁層上に形成されたLSIに送り込むことで高度な信号処理の実現をめざす。2005年に始まったSOIピクセルセンサの開発は、年を追って画素の高集積化が進められており、2011年には、1408×896ピクセル=1.26Mピクセル(画素サイズ12μm×12μm)、有効面積16.896mm×10.752mmの大型センサが作製されている。(執筆/荒井聡)


おすすめ記事

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...