スタンフォード大学の研究チームが、福島第一原発事故による死者数の予測値を発表。原発事故が原因の死者数は130人程度、長期的な癌の罹患者数は180人程度になると試算している。また、事故発生後にとられた原発の周囲20km圏内からの強制退避措置については、強制退避それ自体に起因する死者数が、同措置によって回避された放射線被ばく関連の死者数を上回ると試算。日本政府による強制退避措置はかえって人的被害を大きくする方向に働いたと指摘している。2012年7月17日付の Energy & Environmental Science に論文が掲載されている。
試算にあたっては、20年にわたる研究をもとに開発された三次元全地球大気モデルを使用し、放射性物質の移動を予測した。
原発事故による死者数の算出は不確定要素が多いため、同研究では死者数の範囲を15人から1300人の間と相当幅を持たせて推定しており、この範囲での最良推定値(a best estimate)を130人とした。同様に、原発事故による癌罹患者数についても24人から2500人の間と幅を持たせ、最良推定値を180人とした。
死者・癌罹患者は日本国内にほぼ集中し、アジア大陸本土および北米への影響は軽微であるとしている。
日本政府の事故対応については、ソ連のチェルノブイリ原発事故と比較して迅速かつよく組織されていたと評価する。ただし、研究チームは、事故発生後に原発の周囲20km圏内からの強制退避措置によって回避された放射線被ばく関連の死者数を245人程度と見積もっており、強制退避それ自体に伴う疲労および避難行動中の被ばくに起因する死者数がこれを上回る600人程度にのぼるとの報告があると指摘している。過労による死者の多くは高齢者と慢性疾患者で、日本政府による強制退避措置はかえって人命被害を大きくする方向に働いたことになる。論文発表者の1人であるスタンフォード大学 土木工学教授 Mark Z. Jacobson 氏は「政府は最悪シナリオに基づいて住民を避難させる義務を負っている」とし、退避措置に関する結論を急ぐことには慎重になるべきとの立場を表明している。
研究チームは、福島原発と同一の事故が米国カリフォルニア州ディアブロキャニオン原子力発電所で発生したと想定した場合の被害についても試算した。それによると、日本の場合と比べて同地域の人口密度は1/4程度と少ないが、健康への影響は福島より25%程度増加するという。これは、福島の事故では放射性物質の多くが海に放出されたことで、陸上に堆積した放射性物質が全体の19%程度で済んだのに対して、ディアブロキャニオンでは、サンディエゴやロサンゼルスなどの人口密集地を含む陸上により多くの放射性物質が堆積するためであるとしている。
UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)は、事故発生1か月後に「放射線による住民の健康への深刻な影響はない」との見解を発表した。今回の研究は、事故による死者が実際に出ると試算している点で、これとは対照的な結果となっている。
発表資料
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記事本文中、(強制退避措置それ自体による死者数が)「これを上回る600人程度にのぼるとも試算している。」とした部分は、「これを上回る600人程度にのぼるとの報告があると指摘している」の誤りでした。お詫びして訂正します(本文は修正済みです)。
「600人程度」という数字は研究チームによる試算ではなく、新聞報道などが根拠となっているようです。
ディアブロ キャニオン原発は海の真ん前に建っているのですが、
本文中には"近くに海がない"と、書かれています。
訂正をお願いします。
>>PBL様
ご指摘のとおりです。お詫びして訂正いたします。本文は修正済みです。