バークレー研究所ら、右手/左手が高速で切り替わるキラル人工分子スイッチを開発

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米ローレンス・バークレー国立研究所などの共同研究チームが、光の照射によってキラリティが高速で切り替わる人工分子の開発に成功したとのこと。データ処理の省エネルギー化、国土防衛、超高速通信など、テラヘルツ技術を使った幅広い応用分野に適用できる可能性がある。2012年7月10日付の Nature Communications に論文が掲載されている。

今回開発された人工分子スイッチの走査電子顕微鏡画像 (Credit: Zhang, et. al)

キラリティとは、右手と左手の関係のように、ある物体の鏡像が元の物体と空間的に重ね合わせられない性質を表す概念。ある分子構造の鏡像が、元の分子に対してキラルであるとき、その鏡像分子は元の分子の光学異性体と呼ばれる。

今回開発された人工分子では、外部から照射された光によってメタ分子が光励起されることで、人工分子から放射されるテラヘルツ領域の円偏光の向きが切り替わることが観測されている。さらに、光励起によってキラリティの切り替えを動的に制御することもできるという。

円偏光の右向き/左向きは分子のキラリティに対応して決まるため、この人工分子ではキラリティの切り替えが行われているということができる。実際に分子構造の形態が変化するのではなく、円偏光の向きだけが切り替わるため、形態上の変化を伴う自然界のキラリティ変化と比べて、高速でキラリティを切り替えることができる。

人工分子には、ナノサイズの金の細片を加工して作ったテラヘルツ・メタマテリアルを使用。誘電体として空気が利用されており、光活性を持つシリコン・パッドが媒体として組み込まれている。写真中で、紫、青、黄褐色の部分が金のメタ原子、緑の部分がシリコン・パッドを示している。互いに逆のキラリティを持つ三次元のメタ原子配列が対になっって、人工分子を構成する。それぞれのメタ原子は電気的応答と磁気的応答が結合された共振器として働き、共振周波数に対して強いキラリティと円偏光二色性を作り出す。

今回の研究チームのリーダーであるバークレー研究所 材料科学部門の研究責任者 Xiang Zhang氏によると、形状が同一でキラリティが逆な2個のメタ原子から1個のメタ分子を組み立てた場合、鏡像対称性は維持されつつ、光学活性は失われるという。別の観点からは、キラリティが逆のメタ原子同士が、それぞれの持っている光学活性を相殺していると見ることもできる。

90°回転対称でキラリティ切り替え可能なメタ分子の模式図。外部からの光線照射によってキラリティが右手から左手に瞬時に切り替わる (Credit: Zhang, et. al)


 
ここでキラルなメタ原子に対して、それぞれシリコン・パッドを導入する。ただし、パッドの配置はメタ原子ごとに変える。具体的には、一方のメタ原子においては2本の金の細片を架橋するようにシリコン・パッドを配置する。他方のメタ原子では、金の細片のうちの1本の一部をシリコン・パッドで置き換える。このようにシリコン・パッドを配置することによって、メタ分子の鏡像対称性は破られ、キラリティが導入される。シリコン・パッドは光電子スイッチとしても機能し、光励起の下でメタ分子のキラリティの切り替えが行われる。

テラヘルツ領域での電磁放射は、分子振動の周波数と一致するため、有機材料・無機材料の化学組成分析を非侵襲的に行える理想的な手段といえる。キラル分子のキラリティを切り替えてテラヘルツ光の円偏光の向きを制御できれば、毒物や爆発物の検出、無線通信、高速データ処理システムなどに利用できる可能性がある。DNA、RNA、タンパク質など、ほとんどの生体分子にはキラリティがあるため、テラヘルツ領域での偏光デバイスは、医療・創薬分野でも役立つと考えられる。


発表資料

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