田中貴金属工業、金・銀などの材料特性を生かした接合技術を追求

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田中貴金属グループは、貴金属8元素に関わる多様な事業を展開しており、特に工業用貴金属材料の開発・供給では高い技術力を持っている。本稿では、技術・マーケティング本部 マーケティング部 副部長 原範明氏、化学・回収事業部 化学回収製品部 副部長 河辺洋氏、AuAg系事業部 AuAg系製品部 田中克尚氏、技術開発部門 上席技術員 小柏俊典氏、AuAg系事業部 富岡工場 材料開発セクション チーフマネージャー坂口理氏らへの取材を元に、半導体実装やMEMSの接合に用いられる同社の貴金属接合材料について、技術概要と開発動向をまとめた。

サブミクロン金粒子をMEMS分野に展開

サブミクロン金粒子の電子顕微鏡画像 (出所:田中貴金属工業)

サブミクロン金粒子は、接合温度を低温に抑えつつ、接合後の耐熱温度は高温とすることを狙って開発されたコンセプト材料である。製品ドメインは、スズ系はんだ材料より柔らかく、樹脂性接着剤より高い熱伝導性能という位置にある。

サブミクロン金粒子では、金表面の拡散エネルギーによる焼結作用を利用して接合が行われる。金の融点は1000℃超という高温だが、焼結させることで150℃程度の低温でも接合が可能となる。粒径は0.05~0.5μm程度。このサイズの金粒子は常温では焼結しないが、150℃程度の熱をかけることで焼結が進行する。金粒子の粒度分布を制御することによって、接合温度の調整を行う技術も開発されている。これ以上粒径が小さなナノ粒子になると、接合させたいプロセス以外で勝手に焼結してしまうので、有機系分散剤を加える必要があるなど、材料のハンドリング性に問題あり、半導体実装材料としてはサブミクロンサイズが適当であるという結論に至った。

スポンジ状の構造を形成しているサブミクロン金粒子焼結体に50MPa程度の圧力を加えると、粒子同士が結合し空隙孔が消滅した結果、バルクの金の状態になることで高い接合強度が得られる。完全な純金であるため、耐熱性、導電性ともに高く、材料としては非常に安定しているのが特徴である。接合界面の表面凹凸に対する追従性も高い。同社では、これらの性質をパワーデバイスや高出力発光デバイス、ウェハーボンディング、MEMSデバイスの電気的接続や気密封止などに応用したいと考えているという。

サブミクロン金粒子を用いたパターン転写プロセスフロー (出所:田中貴金属工業)

ガラスウェハー上にサブミクロン金粒子で形成した封止枠や電極などの微細パターンを形成したものをパターン転写基板と称し、田中貴金属工業とズース・マイクロテック、早稲田大学ナノテク研究所による共同開発が進んでいる。現在検討しているビジネスモデルは、顧客の要求するパターンをサブミクロン金粒子でガラスウェハー上に形成し、パターン転写基板として提供するというもの。顧客サイドでは、この転写基板を原版とする転写プロセスによってウェハーを量産し、それらのウェハー同士を貼り合わせることでデバイス製造が行える。パターン転写は、CVDやスパッタなど従来の成膜プロセスによるパターン形成と比べて材料ロスがなく、金の利用率を100%に高めることができる。プロセス的には電気的接続と気密封止を一度に行うことができるので、実装コストの低下につながると考えられる。また、製造装置も従来のアライナーとボンダーがあれば済む。さらに低コスト化を進めるために、金よりも低価格な銀を使って同様のコンセプトのサブミクロン金属粒子を開発する取り組みも行っている。

MEMS分野については、これまでの単機能デバイスに代わって、MEMS/CMOS統合デバイス、シリコン貫通電極(TSV)を用いた三次元構造、異種材料同士の接合といった複合的なデバイスが登場し始めている。これらの新しいデバイスの製造については低温プロセスが要求される傾向が強く、従来のMEMSデバイス製造における陽極接合や金属-金属接合(350~500℃程度の比較的高温プロセス)で使われてきた接合材料が使用できなくなる可能性がある。サブミクロン金粒子は、こうした次世代のデバイス製造にも対応できる新しいタイプの接合技術であるといえる。

銀を使った高熱伝導性導電接着剤

MEMS分野で使用される可能性のある接合材料としては、この他にも銀の導電接着剤などがある。これは樹脂の中に銀の粉体を大量に分散させた材料であり、樹脂中で銀の粒子同士が接触することによって導電性が与えられる。樹脂硬化後の銀の重量比は90~95%となる。

導電性だけでなく、熱伝導性が高いことが銀接着剤の特徴である。このため、導電性と放熱性を同時に要求されるパワーデバイスのボンディングなどに適用されている。接着剤の塗布には主にディスペンサーが使われる。

量産化されている製品は、ポリエステル系熱可塑樹脂とエポキシ系熱硬化樹脂を混ぜ合わせて用いるタイプ(TS3332LD/TS3334LD-40)と、エポキシ系熱硬化樹脂だけを用いるタイプ(TS3601LD-35/TS3601LD-F1)の2種類がある。熱可塑樹脂を混ぜるタイプは、応力の緩和を狙ったもので、材料間の熱膨張率の違いによって生じるクラックを防ぐ働きがある。

熱伝導率は、熱可塑樹脂と熱硬化樹脂を混ぜたタイプが20~23W/m・k、熱硬化樹脂だけのタイプが65W/m・kとなっている。65W/m・kは、金スズ、はんだなどに相当する熱伝導率である。エポキシ樹脂を使っているため、接着剤硬化膜自体の耐熱温度は150℃くらいまでである。それ以上の高温動作が想定されるSiCパワー半導体用途では、金スズ系など樹脂を使わずに直接接合する材料が使われるようになると考えられる。

活性金属ろう材の新規開発

新開発の活性金属ろう材「TKC-651」 (出所:田中貴金属工業)

同社では、2012年4月より、新開発の活性金属ろう材「TKC-651」の提供を開始している。セラミックスをはじめ、金属、グラファイト系の素材など様々な材料をろう付によって接合できる銀-銅-チタン系合金の活性金属ろう材であり、材料に対する依存性がほとんどないのが特徴。ろう付時の高温に耐えられるものであれば、どんな材料でも接合できるという。

従来から、金属ろう材としては、銀銅の共晶合金がよく使われてきた。銀の融点は962℃、銅の融点は約1085℃であるが、組成を調整して銀銅共晶合金とすることで融点が下がり、ろう材として利用できるようになる。具体的には、銅の組成比が28%のときに融点が最も下がり、780℃となる。

ただし、このままではセラミックスなどの接合に使えないため、銀銅共晶合金にチタンを添加することによって接合界面のぬれ性を改善してろう付する「活性金属ろう付法」という技術が開発されてきた。同社の場合は、銀71.0%(±1.0%)、銅28%、チタン1.5%(±0.5%)の組成比を持つ活性金属ろう材「TKC-711」をセラミックの接合用途で以前から製品化している。

活性金属ろう材「TKC-651」の特徴 (出所:田中貴金属工業)

TKC-711など従来の活性金属ろう材では、板厚100μm以下および線での供給が困難であることが問題となっていた。その理由は、銀銅共晶合金の母材中に粗大な銅チタン化合物が析出するためであるという。この銅チタン化合物は粒径100~150μm程度あり、非常に硬いことから、ろう材を薄板および線に加工しようとすると銅チタン化合物に起因する欠陥が生じてしまう。

板を薄くできないと材料コストが上がり、製品形状の自由度低くなる。そこで同社では、板厚50μmまで供給できるように材料組成の調整を行い、TKC-651の製品化に成功した。具体的には、銀65.0%(±1.0%)、銅28%、チタン2.0%(±1.0%)とし、さらにスズを5.0%加えた。スズを添加すると、銀銅の母材中に微細なスズ-チタン化合物が分散するという特徴があり、粗大な銅チタン化合物の析出を防ぐ効果につながるという。

TKC-651を用いたセラミックスのろう接実験では、アルミナ(Al2O3)に4点曲げ試験を行った。310MPaの力をかけたとき、ろう接部ではなくAl2O3母材で破断したことから、接合強度が母材強度より強いことが確認された。また、窒化珪素(Si3N4)の4点曲げ試験では、ろう接部で破断したが、破断時には340MPaの力がかかっていたことから、Al2O3母材よりも破壊強度が高いことが確認されたとする。

セラミックスのろう接実験 ~Al2O3の接合~

セラミックスのろう接実験 ~Si3N4の接合~

これらの実験に使用された母材の電子顕微鏡画像を見ると、ろう材と母材の接合界面にチタンが化合物層を形成していることが分る。チタン化合物が生じる理由は、チタンの反応活性が高いため、接合界面で母材に含まれる酸素や窒素と強い結合を形成するためである。チタンが界面に化合物層を形成することで表面のぬれ性が向上して接合強度が上がり、一方、ろう材内部は銀銅の合金に微量のスズが分散した状態となる。

上述したようにチタンの反応活性が高いため、活性金属ろう材のろう付では、接合前に雰囲気中の酸素や窒素と反応しないようにする必要がある。従って、ろう付条件としては、2×10-2 Pa以下の真空、あるいはアルゴンなどの希ガス雰囲気を使用し、水分の影響を防ぐために露点-55℃以下が適切とされる。加熱温度は790~850℃、溶融時間は1~5分が推奨されている。ただし、レーザーを使ったろう付を研究している外部機関の研究者からは、レーザーによる局所加熱の場合は雰囲気が悪くても接合できるといった報告もあるという。

セラミックスの接合には、活性金属ろう付法以外に「メタライズ法」と呼ばれる方法があり、パワー半導体や水晶デバイスなどのセラミックパッケージの封止分野では今日、こちらのほうが主流となっている。メタライズ法では、セラミックパッケージをコバール(鉄-ニッケル-コバルト合金)で封止するときに中間層としてタングステンやモリブデン、マンガン、ニッケルめっきなどの金属膜を数層形成する。これに対して、活性金属ろう材は1回の加熱でセラミックスを直接接合できるため、メタライズ法と比べて工程がシンプルになるという利点がある。TKC-651のように材料コストが低い製品が出てきたことで、今後メタライズ法の代替となる可能性もある。

(取材・執筆/ 荒井聡)


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