STマイクロエレクトロニクス、MEMS技術をバイオ・医療・健康分野に展開

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欧州最大の半導体メーカーであるSTマイクロエレクトロニクスは、携帯機器向け、車載向けなどのMEMSセンサ市場で高いシェアを確保している。同社が、これからの成長領域と位置づけ、研究開発と製品化を重点的に進めているのが、バイオ・医療分野やパーソナルヘルスケア分野向けのMEMSデバイスであるという。MEMS技術を応用した最先端の医療用デバイスの中には、すでに医療の現場で実用化されているものもいくつかある。同社日本法人のアナログ・MEMS・パワー製品グループ モーションMEMS製品部 部長 坂田稔氏を取材した。

コンタクトレンズ内蔵型の眼圧測定センサ

眼圧測定用ワイヤレスMEMSセンサのデバイス構造(出所:STマイクロエレクトロニクス)

眼圧測定用ワイヤレスMEMSセンサのウェハー(筆者撮影)

緑内障の診断用として、ソフトコンタクトレンズに内蔵する眼圧測定センサの開発・製品化を行っている。製品はスイス医療機器メーカーのSensimedが設計しており、デバイスの製造をSTマイクロエレクトロニクスが行う。

眼圧には日内変動があり、座った姿勢のときの眼圧と横になった状態での眼圧も当然、値が大きく異なる。このため、眼圧測定によって緑内障の診断を行う場合、1回の測定だけでは診断精度が上がらないという問題がある。そこで、コンタクトレンズをはめた状態で、1日を通しての眼圧を測定することによって診断精度を上げるのが、このデバイスのねらいであるという。

信号のやり取りとデバイス電力供給は、すべて無線で行われる。無線には、白金抵抗(受動素子)をアンテナとする電磁誘導が使われている。測定データは、患者が携行するデータロガーに送信され、蓄積されたデータを医師に提供することで緑内障の診断ができる。眼圧の測定は、白金抵抗(能動素子)を歪みゲージとして用いることで眼球表面の曲率を測定し、これを眼圧の値に変換する。欧州では、すでに医療用デバイスとしての認可が下りており、スイスとイタリアの大学病院で実際の診断に使用されている。

糖尿病患者向けインシュリンポンプ

MEMS技術を用いたインシュリンポンプ(筆者撮影)

インシュリンの体内注入を必要とする糖尿病患者向けにMEMS技術を用いたインシュリンポンプの開発・製品化をスイスDebiotechと共同で行っている。

通常、インシュリン注入には注射器が使われているが、これには2つ問題点がある。1つは、体に何回も注射針を刺さなければならないため、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)の観点から好ましくないということ。もう1つは、体内での正常なインシュリン分泌が平坦にじわじわと進むのに対して、注射器による注入にはインシュリン濃度の急激な変動が伴うため、体への負担が大きいということである。MEMSによるインシュリンポンプは、皮膚に貼り付ける使い捨て型のパッチ上に実装され、生体の自然なインシュリン分泌に近いレートでのインシュリン投与を実現することで、これらの問題を解消できるという。

インシュリンの注入は、圧電素子を利用したダイヤフラムポンプによって行っている。ポンプがダイヤフラム動作を1回するごとに一方向弁から一定量のインシュリンが吐出される。このため1回の吐出量を十分小さく取れば、コントローラ側で単位時間あたりのダイヤフラム動作回数を設定することでインシュリンの絶対流入量を制御できることになる。今回のインシュリンポンプでは、1ストロークのダイヤフラム動作で200ナノリットルのインシュリンが吐出されるという。

DNA解析用ラボ・オン・チップ

DNA解析用ラボ・オン・チップ(筆者撮影)

DNA解析を目的としたラボ・オン・チップの製造を行っている。このチップを使ったDNA解析システムは、シンガポールのVeredus Laboratoriesとの協業を通して、製品化されている。

DNA解析では、サンプルから検体を抽出後、PCR(polymerase chain reaction: ポリメラーゼ連鎖反応)によって検体のDNAを増幅し、次に予め用意された特定のDNA鎖に検体のDNAが相補的に結合するかどうかを調べるハイブリダイゼーションを行う。ラボ・オン・チップは、これまで別々に処理されてきたPCRとハイブリダイゼーションを1チップ上に統合し、検査時間を短縮できるのが特徴。また、チューブ内にDNA試料を導入して処理する従来のPCR/ハイブリダイゼーションは、熟練したバイオ技術者を要するが、チップを使用する方法では特別なスキルがなくても安定した検査が行えるという。このため、鳥インフルエンザや病原性大腸菌の検査など、病原体の感染力が強いため検査時間短縮がシビアに求められる分野で効果を発揮すると考えられる。

ラボ・オン・チップを使ったDNA解析システムでは、PCR、ハイブリダイゼーション、蛍光観察、病原体の判定という4つのプロセスを1つの装置で行う(PCR前のサンプルからの検体抽出は除く)。PCRから判定までにかかる時間は、1~2時間で済むという。チップの製造にはMEMS加工技術の1つであるマイクロ流路の形成技術が応用されている。反応物質の拡散距離は時間の平方根に比例するため、微小な反応場を作れば拡散距離が短くなり、それだけ反応時間を短くできるからである。

加速度センサなどの応用例

心臓遠隔モニタリングへの加速度センサ応用(出所:STマイクロエレクトロニクス)

STマイクロエレクトロニクスでは、民生機器や車載用途で使われてきた加速度センサなどの技術を医療用途、パーソナルヘルスケア用途に展開する取り組みも進めている。

実際の事例としては、遠隔医療の現場で、心臓モニタリングにMEMSセンサとアナログIC技術を利用する試みがある。これは米国メイヨークリニックとの共同事業として進められている。電気的な信号を測定する心電図では、信号は出ているのに実際には心臓が動いていない場合があるため、加速度センサを使って物理的な心臓の動きを測り、これを心電図の信号と照合することで測定精度の向上を図るという。その他、家庭用ゲーム機などで使われるリストバンド型の心拍数測定器や、人体の活動量モニタリングシステムなど、パーソナルヘルスケア用途の製品にも同社のセンサが採用されているものがある。(取材・執筆/荒井聡)


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