産総研 集積マイクロシステム研究センター、センサ・ネットワークで低炭素・安心安全な社会めざす

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(独)産業技術総合研究所 集積マイクロシステム研究センターでは、低炭素化と安心安全な社会に役立つセンサネットワークの構築を中心テーマとし、これを実現するための要素技術としてのMEMSの研究開発を行っている。2011年夏からは、最先端のMEMSデバイス製造装置を揃えた8インチ/12インチウェハー対応ファブが稼動しており、民間企業との連携強化も進んでいる。研究センター長の前田龍太郎氏、副研究センター長 兼 Macro BEANS連携研究体長の伊藤寿浩氏、(財)マイクロマシンセンター MNOIC開発センター長の荒川雅夫氏、MNOIC技術開発担当部長の原田武氏を取材した。

ライフ、グリーン分野で実証が進むセンサ・ネットワーク

産総研 集積マイクロシステム研究センターは、現在、「ネットワークMEMS研究チーム」「グリーンナノデバイス研究チーム」「大規模インテグレーション研究チーム」「ヘテロ融合研究チーム」、「ライフインターフェース研究チーム」という5つの研究チーム体制を取っている。

集積マイクロシステム研究センター長 前田龍太郎氏

このうち、ネットワークMEMS研究チームでは、チップ開発およびネットワークを使った実証実験を行う。研究の大きな柱は、ライフ分野とグリーン分野の2つ。ライフ分野では、無線センサネットワークを使って、ニワトリの健康状態チェックや鳥インフルエンザの監視などを行う。実験にニワトリを使う理由の1つは、ニワトリの体が人間と比べて小さいためであるという。ニワトリの体にとりつけるセンサモジュールは、ニワトリの体重の数パーセントに収まる軽くて小さなものにする必要がある。このため、MEMS加工技術が有効に応用できる分野であると考えられる。

グリーン分野については、様々な機器・装置の電力使用状況をモニタリングし、そのデータをネットワーク化することで消費電力削減を実現する技術に取り組んでおり、NEDOプロジェクト「グリーンセンサ・ネットワークシステム技術開発」事業の中核も担う。センサ・ネットワークをコンビニに実装して店舗を低電力化する実験が数年前から続けられている。すでに10店舗、50店舗のネットワーク規模では、約10%の省電力化ができることが実証されている。現在は、NEDOプロジェクトで2000店舗規模のネットワークを使った実証実験を行っているところ。データ数の増加をどのように処理するかといった問題にも取り組んでいる。

最大の課題は低コスト化

伊藤氏によると、センサ・ネットワークによる省電力化については、クリーンルームのように電気を大量に使う大規模施設では比較的容易に実現でき、コンビニのような店舗、さらに一般家庭と電力の使用規模が小さくなるほどハードルが高くなるという。クリーンルームでは年間の電気代が数億円に上るため、例えば5000万円のシステムを導入しても1~2年あれば電気代の削減分でコスト回収できるが、電力使用が小規模になるにつれて、より安価なシステムを作らないと導入しても電気代によるコスト回収が困難になるからである。

「現在の技術では、一般家庭への導入はコスト面のハードルが非常に高い。しかし、社会全体で見ると一般家庭で使用されている電力量は大きいので、削減できれば低炭素化の効果も大きい」と伊藤氏。当面は、クリーンルームと一般家庭の中間に位置するコンビニなどの店舗をターゲットとした研究開発を進め、より低コストなシステムの可能性を探っていくとする。

民間との連携を強化

ネットワークMEMS以外では、グリーンナノデバイス研究チームが、ものづくり・製造技術、特にナノインプリント技術の研究開発を行っている。大規模インテグレーション研究チームでは、MEMSと半導体技術の統合・集積化、ヘテロ融合研究チームでは、材料、化学、流体などの分野の融合技術に取り組む。また、集積マイクロシステム研究センターが設置されている産総研つくば東事業所内の同じ研究棟には、上述したグリーンセンサ・ネットワークシステム技術開発プロジェクトやBEANSなど、NEDOプロジェクトに参加している民間企業、さらに(財)マイクロマシンセンター マイクロナノ・オープンイノベーションセンター(MNOIC)のメンバーも常駐しており、産総研と民間企業の相互交流、連携が活発に行われている。

露光プロセス用クリーンルーム

ディープエッチング装置

同事業所内に設置されている8インチ/12インチウェハー対応のMEMS製造ラインでは、通常の研究開発以外にも、企業への装置・ライン提供を行うことによって民間の研究試作・生産を支援する取り組みも進む。この仕組みについては、MNOICが運営を行っている。荒川氏によると、現在ベンチャー企業含め22社がこの仕組みを利用しており、民間からの関心は非常に高いという。

「産総研は最先端の製造装置を保有しており、その中には世界に2~3台しかないものもある。特に、検査装置・計測装置については、本来は企業の研究開発にとって欠かせないものだが、研究開発投資が後回しになる傾向があるので、MNOICのような仕組みを作って民間を支援していくことが重要だ。前工程から後工程まで装置が揃っているので、量産技術の検討にも利用してもらえる」と荒川氏。例えば欧州IMECのような、企業、大学、国の研究機関が深く結びついた仕組みが、日本のMEMS分野で立ち上がる兆しはあると感じているという。

施設内の各所に設置されたパーティクルセンサ、ガス・薬液の消費量モニタ

クリーンルームの省電力化

MEMS製造ラインは、クリーンルーム省電力化の実証実験設備という性格も持たせて設計されている。原田氏は、「クリーンルームを省電力化する上では、空調電力を抑えるのが最も効果的。そのため、電力が消費される負荷の部分にセンサを配置し、一括モニタリングしたデータから空調制御にフィードバックをかける」と説明する。空調機器はあちこちに分散させて設置し、特に温度が上がっているところ、空気が汚れているところを検知して、重点的に空調を効かせ、パーティクル除去フィルタを回す。クリーンルームが汚れるのは、基本的に人が作業している周りだけなので、人が入る場所と時間に対して選択的に空調を行えば清浄度は保たれるとする「クリーン・オンデマンド」のコンセプトで設備全体が設計・運用されている。設備内のセンサによるモニタリングデータは、iPadなどタブレット端末で情報共有する。

MEMS加工技術の大型化に注目

後工程装置・検査測定装置が設置されたクリーンルームの外観

MEMS製造ラインに設置されている各種製造装置については、2011年10月の産総研オープンラボ見学時に書いたこちらの記事を参照されたい。研究センター長の前田氏によると、今後充実させたい分野の1つとして、実装関連、めっきラインなどがあるとのこと。「めっきラインについては、利用者の中に、金型を試作をしたいという方がかなりいるため、充実させたいと考えている」と前田氏。MEMSの加工技術を大型化するというのが、今後の技術開発の方向性の1つであるという。集積マイクロシステム研究センターでは、金型のように大型でありつつ、微細加工を施すことも可能とする独自の製造技術が今後非常になってくると認識している。これは、ナノインプリントなどの技術も応用できる分野であると考えられる。

(取材・執筆/荒井聡)


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