イオン液体によって水素生成触媒の反応速度と効率が同時に向上 ― PNNLが報告

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米パシフィック・ノースウェスト国立研究所(PNNL)が、イオン液体を使って水素生成触媒の反応速度と効率を同時に上げられるとする報告を行っている。これまで水素生成触媒は、反応速度は速いが効率は悪い触媒、または効率は良いが反応速度は遅い触媒しかなかった。今回の研究は、イオン液体によって反応速度と効率の間のトレードオフの関係を解消できることを示すもの。プラチナ代替のニッケル材料を使用して、より高性能な水素生成触媒を設計できる可能性もあるという。2012年6月8日付の米国科学アカデミー紀要(PNAS)オンライン版に論文が掲載されている。

ニッケル触媒の分子構造 (出所:PNNL)

研究対象となったのは、可溶性のニッケル系触媒。PNNLの化学者チームは、ヒドロゲナーゼというタンパク質をモデルにして触媒を設計した。ヒドロゲナーゼの重要部位を模して触媒中心を作り、その周りに化学的な足場を組んだという。

これまで知られている水素生成触媒のうち、効率の良いものは水素分子の生成速度が毎秒1000個程度と遅かった。逆に、毎秒10万個の水素分子を生成する高速な触媒は効率が悪かった。研究チームは、反応速度と効率という2つの要素のトレードオフ関係を分離したいと考えて、低速の触媒を酸性イオン液体に浸すことを試みた。

実験では、触媒とイオン液体と水分を混合した。研究チームの予想通り、触媒がイオン液体と電流に促されて、電流として入ってくる電子の一部を水素の化学結合に変換した。予想では、添加する水の量が増えるにつれて触媒の反応速度が一時的に上がり、その後は低下すると考えられた。これは、低速触媒を従来の溶媒に溶かしたときと同じ挙動である。しかし、実際の観察結果は違っていた。

触媒反応のサイクリックボルタモグラム。水分が増えるに従って水素生成速度が上がる (DuBois et al. PNAS(2012) doi: 10.1073/pnas.1120208109)

PNNLの化学者 John Roberts氏によると、「水を足すことで、触媒の反応速度がロケットみたいに急上昇する」という。水を加えれば加えるだけ、反応速度は上がり続けた。実験における最大量の水を加えたときには、触媒は毎秒5万3000個もの水素分子を生成した。これは従来の高速だが効率が悪いタイプの触媒とほとんど同じ速さである。しかも、高速化された触媒の効率は、もとの低速触媒を低速で反応させたときの効率と変わらなかった。反応速度と効率のトレードオフ関係を分離できたことは、速度と効率の両面から触媒性能を向上できる可能性があることを示すものといえる。

研究チームは、液体塩の環境中で触媒がどのように機能するのかについても解明したいとする。水素生成の速度は、触媒が電子を高速で動かしていることを示唆していたが、他にも何かプロトンを高速で動かしているものがあるはずである。プロトンは正の電荷を帯びた水素イオンであり、電子はプロトンに付いて回るからである。ちょうど工場の組み立てラインのように、プロトンは触媒やヒドロゲナーゼなどのタンパク質の中を移動していく。その途中で電子を獲得し、水素を生成するための結合手を形成すると、触媒から外れる。

Roberts氏は、水とイオン液体が組み合わさることによって、プロトンを動かす働きがある自然のヒドロゲナーゼタンパク質に似た効果が働いているのではないかと考えている。次の研究課題は、この組み合わせによって触媒の反応速度が高速化する理由を探ること。また、この触媒を材用表面に付着させて水素製造に利用することもめざす。さらには、電気エネルギーを化学結合に変換したり、逆に化学結合を電気エネルギーに戻すといった燃料技術を開発するため、水素分子を分解する触媒の働きを助けるイオン液体についても検証したいとしている。


発表資料

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