「海床への杭打ちで魚にダメージ」PNNLが実験報告。洋上風力、潮力発電設置工事の環境規制に見直し促す

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米パシフィック・ノースウェスト国立研究所(PNNL)では、洋上での大規模構造物の建設時に海床へ打ち込まれる鋼鉄製パイルの杭打ち音が魚に及ぼす影響について、詳細な調査を行っている。現在、洋上風力発電や潮力発電、天然ガス採掘といった海洋エネルギー利用設備の建設で行われる杭打ち工事については、騒音のレベルを総量規制する形で環境保護基準が設けられているが、今回の研究は、1回の杭打ちであっても、そのとき発生する衝撃の強度が閾値を超えていれば魚に大きなダメージを与えることを示唆するもの。今後、海洋での建設工事における環境保護基準の見直しを促すことになるかも知れない報告として注目される。2012年6月20日付のオープンアクセス学術誌PLoS ONEに論文が掲載されている。

海床への杭打ち工事 (Credit: Port of Tacoma)

研究リーダーの生物音響学者 Michele Halvorsen氏は、今回の研究について「規制当局が海の生物を保護しつつ海洋開発への許可を出すための手助けをするもの」とコメント。「制御された実験室でのテストによって、杭打ちが魚に与える影響を高い信頼度で測定した初めての成果」であるとする。

大型のハンマーで鋼鉄製パイルを海床に打ち込むときの音は、水圧の変化をもたらし、これが魚に影響を及ぼすとされる。例えば、水圧の急激な変化によって魚の血中から通常より速く酸素が放出されるようになり、潜水病のような減圧症状を招くという。また、水圧の変化は魚の浮袋にも影響を及ぼす。水圧が繰り返し変わることによって、浮袋が急激に膨張収縮して周囲の器官にダメージを与え、また浮袋自体が破裂する場合もある。

杭打ち音の評価を行う実験装置 (Credit: PNNL)

研究チームは、今回初めて、こうした影響を詳細に評価するための実験装置を開発した。装置は、口径9.5インチ、厚さ1.5インチの硬い鋼鉄製のチューブ形状。チューブの両端がスピーカーになっており、ピストン動作によってチューブ内に水を押し入れる仕組みとなっている。このピストンが、杭打ち工事中の音とそれに伴う水圧変化を再現するという。

実験では、サケの孵化場で育ったキングサーモンの幼魚をチューブ内に入れた。魚はまず20分間その環境に慣らされ、その間に浮袋を膨らませて水中で浮かぶことができるようになる。このステップが、実験結果を現実的なものにする上で重要になる。その理由は、浮袋が萎んだ状態の場合、音波によるダメージが軽く済むことがあるためだという。

チューブ内の魚には、2005年にワシントン州沿岸で行われた杭打ち工事で録音されたものと同じ音と振動を浴びせた。杭打ちを模したインパルスは、音のエネルギーの指標であるデシベル(dB)で測定した。魚は6つの異なる間隔でインパルスを受け、それらの強さは1μPa2-sに対して204~220dBであった。これは、海中爆薬に比べると小さなものであるといえる。ただし、インパルスの回数によって、音の強さは異なる。実験では、典型的な杭打ち工事を模して960回および1920回のインパルスを魚に浴びせた。魚が受けるインパルスの総数が少ないときほど、1回のインパルスの平均強度は大きくなった。

魚の損傷例 (Michele B. Halvorsen et al., PLoS ONE(2012) doi:10.1371/journal.pone.0038968.g003)

次に、研究チームは、魚が損傷を受けるかどうか、受けるとするとどの程度の損傷かを観察した。損傷の程度は「軽度」「中程度」「致命傷」の3段階に分けて評価した。「軽度」の損傷は、ヒレや体の打撲、萎んだ状態で破裂していない浮袋などが含まれる。「中程度」の損傷は、ヒレや毛細管からの出血、浮袋や筋肉その他の器官の損傷など。「致命傷」は、テストから1時間以内に魚が死んだ場合の損傷、浮袋や各器官の出血・裂傷によりすぐに死ぬとみられる場合などとした。この分類に基づいて、観察された損傷に対して「軽度」は1ポイント、「中程度」は3ポイント、「致命傷」は5ポイントというように数値を付与した。

研究チームは、実験に使った魚ごとにこのポイントを合計。その結果、総ポイントが2ポイントを超えた魚は、回復不可能な高いリスクを負うことが分ったという。2ポイントをわずかに超える程度の魚はすぐに死ぬわけではないが、軽微な損傷が2個以上合わさることで、餌を取りにくくなったり、捕食者から逃れにくくなることで死ぬ時期が早まる可能性がある。今回の研究では、1920回のインパルスを与えたときは1回の音量が177dB超、960回のインパルスのときは同じく180dB超となる場合に、損傷が2ポイントを超えることが示されたという。

Halvorsen氏は、今回の結果を規制当局と共有しており、杭打ち音の閾値決定に関するこのアプローチが、杭打ち工事の許認可プロセスの改善に役立つことを願っているとする。また、開発事業者についても、こうした閾値の存在が念頭にあれば、海床の硬い部分に当たったときに杭打ちの強度を弱めて回数を増やすことによって、魚へのダメージを回避できるのではないかとみている。

なお、今回の研究はキングサーモンの幼魚だけを対象としたものであり、体の構造が異なる他の種類の魚や、体格・年齢のことなるキングサーモンに対する閾値を確立するためには追加の実験が必要になるという。


発表資料

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