メリーランド大、グラフェンを用いたホットエレクトロンボロメーターを開発。ダークエネルギー研究にも応用可能

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メリーランド大学の研究チームが、グラフェンを用いた新型のホットエレクトロンボロメーターを開発したとのこと。赤外光を高感度に検出することが可能で、生物化学兵器の遠隔検知、空港でのボディスキャナ、ラボでの化学分析、天文学分野の研究など幅広い応用が考えられるという。2012年6月3日付の「ネイチャー・ナノテクノロジー」オンライン版に論文が掲載されている。

二層グラフェンの電子が光によって昇温するイメージ (Illustration by Loretta Kuo and Michelle Groce, University of Maryland)

ボロメーターは温度に依存して抵抗値が変化するデバイスで、赤外光の検出に用いられる。半導体を用いるボロメーターでは、吸収・検出できる光が半導体のバンドギャップより大きいエネルギーを持つものに限られるが、グラフェンの場合はバンドギャップがゼロであるため、どんなエネルギー状態の光でも吸収できるという特徴がある。このためグラフェンは、テラヘルツ波や赤外光など、エネルギーが極めて低くほとんどの半導体を透過してしまう光の吸収に適しているといえる。

光吸収体としてのグラフェンのもう1つの特性は、エネルギーを吸収した電子が、そのエネルギーを原子の振動として失うことなく効率良く保持できることにあるという。この特性は、グラフェンの電気抵抗が極めて低いことの理由でもある。

ただし、通常グラフェンの抵抗はほとんど温度に依存しないため、ボロメーター用途には適さないと考えられる。そこで研究チームは、二層グラフェンにデュアルゲート構造を適用することで、電界をかけたときに二層グラフェンが小さなバンドギャップを持つようにデバイスを設計した。バンドギャップは、抵抗に強い温度依存性を持たせる程度には強く、同時に赤外光をよく吸収できる程度には弱いレベルに調整されているという。

グラフェン・ホットエレクトロンボロメーターの構造図とポンププローブ実験における応答速度データ。サブナノ秒での応答が見られる (Credit: H.D.Drew et al., 2012)

試作した二層グラフェン・ホットエレクトロンボロメーターを絶対温度5Kの極低温で動作させたところ、同一温度での既存のシリコン・ボロメーターと同等の検出感度があり、動作速度についてはシリコンの1000倍超という高速で動作することが確認されている。さらに、より低温条件で動作させた場合には、既存のボロメーターを凌駕する性能が得られると考えられるという。

グラフェンを用いたホットエレクトロンボロメーターは、高速・高感度・低雑音でのサブミリ波検出に適しているため、比較的低温の星間分子から放射される光の観測に用いることで、星や銀河の初期形成過程を研究対象とするサブミリ波天文学のツールとしても有効利用できると考えられる。こうしたサブミリ波が高感度検出できるようになることで、宇宙の遠方にある初期銀河の赤方偏位や質量の測定などが行えるようになり、ダークエネルギーや宇宙構造の形成過程に関する研究が進むことも期待できるという。

技術的な課題もいくつか残っている。グラフェン・ボロメーターは、他の材料を用いた場合と比べて電気抵抗が高くなるため、高周波での使用が難しい。また、二層グラフェンが吸収する光は入射光全体の数%しかない。研究チームは、こうした問題を回避するための新規のデバイス設計にも取り組んでいるという。


発表資料

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