UCLA、分子のキラリティが自然発生する現象を解明。エントロピーが関与

このエントリーをはてなブックマークに追加
Share on Facebook

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームが、分子のキラリティに関する興味深い報告を行っています。生命体を形作るタンパク質などの機能性分子にキラリティの偏りがあり、光学異性体がほとんど見つからないのは何故なのか? この謎を解くための手がかりになる研究として注目されます。研究を行ったのはUCLAの化学・物理学教授 Thomas G. Mason氏らのグループ。2012年5月1日発行のNature Communicationsに論文が掲載されています。

アキラルな三角形がキラルな超構造を形成する (Credit: Thomas G. Mason and Kun Zhao)

キラリティとは、物体の鏡像が、元の物体と空間的に重ね合わせられない性質を表す言葉です。ヒトの右手と、右手の鏡像である左手にもキラリティがあることから(右手の甲に左手の手のひらを重ねても形が一致しない)、キラリティの訳語として「掌性」「対掌性」などの用語が使われることもあります。ある分子構造の鏡像が、元の分子に対してキラルであるとき、その鏡像分子は元の分子の光学異性体と呼ばれます。

物体とその鏡像を空間的に重ね合わせることができないキラルな分子の例 (出所: ウィキメディア・コモンズ)

タンパク質やアミノ酸などの生体高分子の光学異性体も可能性としては存在できるはずですが、不思議なことに自然界の生命体では、キラルな関係にある一方の分子だけが存在しており、その光学異性体が見つかることはほとんどありません。このように生命体の分子のキラリティに偏りがあり、光学異性体が存在しない理由は今もよく分かっておらず、研究者の間では長年の謎とされている問題です。

研究チームでは、この問題に取り組むために「そもそもキラリティはどのようにして発生するのか」を解明しようと考えました。そして研究の結果分かったのは、キラルでない物体から出発した場合でも、キラリティが自然発生することがあるということだといいます。

キラルでない物体、つまり自身の鏡像とぴったり重ね合わせられる物体は「アキラル」と呼ばれます。例えば、正三角形はアキラルな図形です。研究チームは今回、半導体チップの製造技術であるリソグラフィの手法を使って、アキラルな正三角形の微粒子を数百万個作製。この正三角形微粒子の濃厚な系について、光学顕微鏡による観察を行いました。

光学顕微鏡で観察された正三角形微粒子の画像。左から右へ行くほど粒子の面積率が高くなり、キラリティが現れるようになる (Thomas G. Mason et al., Nature Communications 01 May 2012 / doi:10.1038/ncomms1803)

論文によると、研究チームは、ブラウン運動する正三角形微粒子の濃厚な系において、「キラリティの対称性の局所的な破れ」を観察したとします。すなわち、アキラルな正三角形微粒子群が自然発生的に自己組織化することによって、キラリティのある「超構造」が形成され、そのキラルな超構造には生命体におけるタンパク質のようなキラリティの偏りが見られたというのです。

均一なアキラル粒子からキラルな構造が自然発生的に現れる現象は、エントロピー効果によるものであるとMason氏は説明します。

エントロピーは通常、系を無秩序化する物理的な力であると考えられていますが、より詳しく見ていくと、エントロピーの働きによって系が部分的に秩序化される場合もあります。今回のケースでは、非常に濃厚に集まった正三角形微粒子が平坦な表面上に拡散しつつ相互作用するとき、それらの粒子群は、三角形を組み合わせたキラルな超構造から構成される液晶状態へと部分的に秩序化されます。これにより、個々の粒子の自由度が最大化されるとします。

論文によると微粒子の面積率φAがほぼ0.55に等しい系は空間的に無秩序な相となり、ただし、六方系の液晶とは異なる分子配向特性が現れるとします。さらに、面積率が0.61以上と高くなると、キラリティの対称性に局所的な破れがみられるようになります。これは回転エントロピーによって、最も近くにある三角形微粒子の位置が横方向にオフセットされることを意味しているといいます。局所的なキラル対称性の破れが空間的な無秩序性に寄与することによって、エントロピー的に結晶化され得る形状の範囲は制約されると考えられます。

「今回の研究の成果は、エントロピーと粒子の形状という2つの要素を揃えてあげるだけで、濃厚な系の中からキラリティが自然発生的に現れることが分かったことだ」とMason氏。「25年間研究を続けてきたが、アキラルな物体からできている系の中から、エントロピーの働きによってキラリティが現れるのを観察することになるとは思ってもみなかった」と話します。今後の課題は、粒子の形状を変えたときに何が起こるかを調べること。そして最終的には、自然発生的に起こるキラルな構造形成を制御できるかどうかを確認することであるとします。


発表資料

おすすめ記事

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...