スタンフォード大学とSLAC国立加速器研究所が、二重層シリコンナノチューブ(DWSiNT)を使って、サイクル寿命が6000サイクル以上と非常に長いリチウムイオン電池用負極材を設計したとのこと。シリコン負極は、従来の炭素負極と比べてリチウムイオンの吸蔵量が10倍以上高いため電池の高容量化に適するとされますが、繰り返し充放電に伴ってシリコンが激しく膨張収縮するという性質もあり、数サイクル後には性能が著しく低下してしまうことが問題となっていました。今回DWSiNT負極によってこれが解決されたことで、高容量・長寿命のリチウムイオン電池開発に進展が期待されます。研究を行ったのは、スタンフォード大の材料科学者 Yi Cui氏が率いるチーム。今回の成果については、「ネイチャー・ナノテクノロジー」に論文が掲載されています。
リチウムイオン電池の負極にシリコンを用いる場合、シリコン原子1個につき最大でリチウムイオン4個が結合します。一方、現在一般に使用されているリチウムイオン電池用炭素負極では、炭素原子6個につきリチウムイオン1個しか結合しません。このことからも、シリコンがリチウム吸蔵能力の高い負極材であることが分かります。
しかし、4個のリチウムイオンがシリコンと結合した状態では、シリコン負極の体積はもとの4倍に膨らみます。さらに、ある種の電解質がシリコンと反応することによって副反応物が生成され、これが負極の表面に堆積して充電を阻害すると考えられます。放電時には、リチウムイオンが負極から放出され、負極はもとの体積まで収縮。このとき、収縮によって負極表面の堆積物にクラックが生じ、電解質にシリコンが露出します。
数回の充放電サイクルの間に、膨張収縮による歪みと電解質の反応の影響が重なることによって、負極の破壊が起こります。パチパチ音を立てて負極が壊れる場合もあるといいます。
研究チームは、過去5年間、シリコン負極の耐久性向上に取り組んできており、ナノワイヤの外側にシリコン層を形成してから中身をくりぬいてDWSiNT負極とする技術を開発。最新の研究では、酸化ケイ素(セラミック)の薄膜1層をDWSiNTにコーティングすることによって、ナノチューブの外壁が膨張から保護され、ダメージを受けないようにしています。シリコンは内側の中空部に向かって膨らむため膨張による負極への影響がなく、また内側中空部が十分小さいため電解質の分子が内部に入り込んでくることもないとします。
図1aは、DWSiNTの作製プロセスを図解したものです。最初に、ポリマーナノチューブをエレクトロスピニング法で作製。これを炭化処理して、CVD法により表面にシリコン層を成膜します。次に試料を空気中で500℃加熱すると、内側のカーボンテンプレートが選択的に除去され、連続的なシリコンチューブが残ります。外側の赤色で示された部分が電解質の浸入を防ぐための酸化ケイ素の薄膜層。図1bcはDWSiNTのSEM画像、図dはTEM画像。
図2aは、異なったタイプのシリコン負極について、充放電サイクルに伴って容量保持力にどの程度の差が出るかを調べたグラフです。黒がDWSiNT、青が酸化処理していないシリコンナノチューブ、赤がシリコンナノワイヤを表しています。図2bのグラフは、リチウム化/脱リチウム化のサイクルを経たときのDWSiNTの容量およびクーロン効率の変化を表します。6000サイクル後も著しい容量減少が起らず充放電開始前の85%の容量が保持されていることが分かります。
Cui氏は、今後の研究課題としてDWSiNTの作製方法の簡易化を挙げています。また、DWSiNT負極と組み合わせて使用する新規高性能正極材の開発も行うとしています。
発表資料
おすすめ記事
- スタンフォード大ら、自然エネルギー蓄電向けのカリウムイオン電池を開発
- SLACとスタンフォード大、タマゴ型のリチウムイオン電池正極で従来比5倍超の正極容量を実現
- SLACら、新構造のリチウム硫黄フロー電池を開発。低コストな自然エネルギー向け大規模蓄電池に期待
- スタンフォード大ら、電子の配置を自由に設計できる新技術開発。60テスラの巨大磁場を擬似的にかけることも可能
