グラフェン液体セルを使った電子顕微鏡法、バークレー研究所らが開発。液体中の結晶成長を原子スケールでその場観察

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米ローレンス・バークレー国立研究所とカリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)の研究チームが、液体中のナノ結晶の成長過程を電子顕微鏡で画像化する技術を開発。ナノ結晶を分散させた液体をグラフェン層で封止した状態で観察するとのこと。液体中で起こるナノスケールの物理、化学、生物学的現象がその場で直接観察できるようになり、動画を撮ることも可能になるため、多方面の研究開発への応用が期待されます。

電子顕微鏡観察用グラフェン液体セル。2層のグラフェンの間にサンプル液体を封止する。ナノ結晶が液中で成長する様子を原子スケールの分解能を持つTEMでその場観察できる (Courtesy of Berkeley Lab)

この研究を行っているのは、バークレー研究所ディレクター兼UCバークレー・ナノテクノロジー教授のPaul Alivisatos氏、バークレー研究所材料科学部門兼UCバークレー物理学教室 集積ナノメカニカル研究センター長のAlex Zettl氏らのグループ。

同グループが「サイエンス」に発表した論文の筆頭執筆者 Jungwon Park氏は「液体中での化学反応を原子スケールでリアルタイム観察することは、物理学者・化学者の夢の1つ」とコメント。「今回開発したグラフェン液体セルを使うことによって、微量の液体サンプルを高真空条件下で捉え、ナノ結晶の成長プロセスを動画撮影できるようになる。グラフェンは化学的に不活性であり、また極めて薄いため、液体セルを使ってありのままの試料の状態を高解像度・高コントラストで把握できる」と話します。

電子顕微鏡に必要な高真空条件下で液体試料を観察する場合、試料の蒸発を防ぐために「セル」と呼ばれる観察窓付きの密閉容器が使われます。現在、こうした液体セルの観察窓の材料には、窒化ケイ素または酸化ケイ素が使われていますが、シリコンを用いた観察窓には、電子ビームを高強度に透過させるには厚過ぎるという問題があり、電子顕微鏡の分解能が最高でも数nmレベルに制約される要因となっています。また、原子レベルの分解能が出せないことに加え、液体やその中に分散した試料の自然な状態が、厚いシリコン観察窓によって乱されるとも考えられています。

これに対して、原子1個分の厚さしかなく、電子ビームを散乱させずに透過させるのがグラフェンの特徴。さらにグラフェンには、機械強度が高く、浸透性がないことや、化学的反応性がないといった性質もあり、液体セル内の試料を電子顕微鏡の高エネルギービームから保護するのに役立つとします。

今回の研究では、白金ナノ粒子を分散させた溶液をグラフェンの層間に注入して液体セルを作製。グラフェンは銅箔上にCVD成膜し、孔のあいたアモルファスカーボンで支持された透過型電子顕微鏡(TEM)用グリッドの金メッシュに直接転写しました。グラフェン同士の間に働くファンデルワールス力の作用が相対的に強いため、6~200nmの範囲の厚さであれば、液滴はグラフェンの層間に確実に捕獲されるといいます。

研究チームは、グラフェン液体セルのテストを行うため、バークレー研究所内に設置された国立電子顕微鏡センター(NCEM)の電子顕微鏡「TEAM I」を利用しました。TEAM I は分解能0.5オングストローム(水素原子1個よりも小さいスケール)を誇る世界最強の電子顕微鏡。グラフェン液体セルに封入した白金ナノ粒子の結晶成長の様子を、TEAM Iによって高分解能で直接観察できたとします。

「原子スケールの分解能での直接のイメージングによって、白金ナノ結晶の成長プロセスにおける重要なステップがそれぞれ画像化できるようになった。この結果、従来予想されていなかったいくつかの現象も見つかっている。自己選択的な合体、合体後の構造再形成、表面のファセット化(切子面の形成)などだ」とPark氏。

3年前、Park氏とAlivisatos氏が参加していた研究チームは、NCEMにある他のTEMと窒化ケイ素観察窓を使って、コロイド状の白金ナノ結晶が液中で成長する過程をサブナノメートルの分解能で画像化することに成功。このときの実験結果から分かったことは、結晶の中には標準的な核生成と凝集プロセスによって次第に大きく成長していくものがある一方で、合体によって間欠的かつ急激に結晶成長を遂げるものもあるということでした。合体とは、小さな結晶同士がランダムに衝突・融合してより大きな結晶となる現象。標準的な結晶成長プロセスと合体プロセスでは成長過程は大きく異なるものの、最終的に生じるナノ結晶のサイズと形状はどちらもほぼ同じものになったといいます。

しかし、Park氏によれば、「この先行研究では、合体成長の過程でナノ粒子がどのように融合・再組織化するのかを十分に理解するための分解能を出すことができなかった」とのこと。「今回グラフェン液体セルを使うことによって、特定の結晶方向に沿って合体が配向する過程を解像できるようになり、ナノ結晶がその構造全体を再組織化して最終的な形状が形成される様子を理解できるようになった」とします。

研究チームの報告では、グラフェン液体セルとTEAMI を使った観察によって、結晶面{111}の方向に沿って結晶の合体が続く現象が見られたとのこと。こうした特定方向に沿ったナノ結晶の合体は、これまで金属ナノ粒子では知られていないものであるといいます。

「2つの白金ナノ粒子が融合する瞬間の原子の配置を解像し、配向結合を可視化できるようになったことは今回の研究の成果だ。こうした配向現象は、異方性粒子の主要な成長メカニズムとして知られている」とPark氏。「合体が特定方向に配向して起こる現象は、双晶界面の形成メカニズムの1つである可能性もある。双晶界面は、ナノ粒子が結晶面{111}方向に沿って融合するとき、鏡面上に発生するからだ」と指摘します。

将来的には、研究チームはグラフェン液体セルを使って、様々な種類のナノ粒子を調べることを計画しているとのこと。金属、半導体、その他の有用材料が調査対象になるとします。また、自然界でも液中に存在しているDNAやタンパク質などのバイオ材料にもグラフェン液体セルが適用できる可能性があります。

今回の研究のためにTEAM I を操作したNCEMのスタッフ Peter Ercius氏は、「原子1個分の厚さしかないグラフェンは、液体の封入には理想的な材料」とし、「グラフェン液体セルを収差補正されたTEAM I の画像と組み合わせることによって、液体を使った実験でその場観察(in-situ)を行うための完璧な画像コントラストと分解能を実現することが可能になる」と評価。また、「グラフェン液体セルの技術は、その他の電子顕微鏡法への応用も容易。液体中での材料合成に関わる謎を原子スケールで解く測定手法になり得る」と話しています。


発表資料

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