スイス連邦工科大学チューリッヒ校の研究チームが、自律飛行が可能な新型の無人マイクロヘリコプターを開発したとのこと。飛翔体に搭載したカメラと小型コンピュータを使って自分自身で飛行進路を誘導することができるため、GPSや遠隔操作によるコントロールの必要がなくなるといいます。
飛行ロボットの開発は、すでに多くの研究者が取り組んでいますが、今のところ機体が大きく重いことに加え、野外で使用するときGPSによる支援や熟練した操縦者が必要になるという問題があります。EUでは、こうした制約をクリアすることを目的とする自律型飛翔体の開発プロジェクト「sFly」が2009年に始動。今回の研究も同プロジェクトの一環であるといいます。
今回開発されたマイクロヘリコプターにおける技術革新の1つは、地上の基地局との通信がない状態であっても、機体に搭載したカメラと小型コンピュータだけを使って機体の姿勢制御と位置情報の把握を行えるようにしたこと。マイクロヘリコプターの飛行の動きは、カメラによる撮像データを使ってリアルタイムで計算。飛行制御ユニットが、撮像データと飛行予定を比較し、偏差がある場合にはこれを補正する機能を持っているとします。
チューリッヒ大 自律システム研究所のチームは、GPSを利用する飛行ロボットと比べた場合、この技術には利点が2つあると主張しています。1つは、野外や閉鎖空間などでも使用できること。もう1つは、ビルの谷間などでGPSの電波が届かないときでも飛行可能であることです。「カメラを利用するシステムは、GPSを利用するシステムに比べて、飛翔体の位置情報の精度を上げることができる」とプロジェクトコーディネーターの Davide Scaramuzza氏は説明します。周囲の環境条件によっては、GPSによる測位に70m程度の誤差が生じることがありますが、複数の飛行ロボットが互いに接近した状態で飛行する場合を考えると、この誤差は大き過ぎるといえます。
飛行ロボットの機体には3台のカメラが搭載されており、そのうちの1つが飛行制御ユニットにデータを送ります。残る2台のカメラは、三次元モデリングに使われます。撮影された画像は、WiFi無線を通して、機上のコンピュータから地上局のコンピュータに転送。地上局コンピュータは、受信したデータを元に飛行エリアの三次元マップを生成。三次元マップには、飛行ロボットに対する障害物が表示されます。この情報は、飛行ロボットがエリア監視を完全に行うための最良の位置を計算するといった目的で使うこともできます。
従来型の飛行ロボットの短所の1つとして、機体重量が重く、エネルギーの消費量が大きいということがあります。このため、sFlyプロジェクトでは、より効率的なアルゴリズムを開発することによってコンピュータの計算に必要な電力を削減し、同時に飛翔体コンピュータの計算能力の向上をめざす研究を行っています。
6枚の回転翼を持ち、カメラ3台と小型コンピュータを搭載したマイクロヘリコプターは重量わずか1500g。ミュンヘンにある飛行ロボットの専門企業 Ascending Technologiesと共同開発しました。サイズは約50㎝径で、狭く閉鎖的な空間でも飛行できるように設計されており、あらゆる障害物を発見し、回避行動をとることができるとのこと。
想定される応用分野は救命保護活動など。被災地上空からの空撮や、被災者の捜索に適しているとします。自律システム研究所 所長 Roland Siegwart氏は、「sFlyプロジェクトは、そう遠くない将来、被災地での救命活動にあたる救援隊にとって大きな助けとなるだろう」と話しています。
発表資料
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