NIST、光の圧力で動く可動式ミラー開発。回折格子を使った新規デバイス構造で性能向上

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米国立標準技術研究所(NIST)が、空洞共振器用の高性能なミラーデバイスを開発したとのこと。光の圧力によって機械的に動くデバイスであり、これまで空洞共振器で使われてきた積層ミラーに比べて、測定感度が大幅に向上。光学とMEMSを結合した新技術として注目されます。

空洞共振器の構造図。レーザー光が固定ミラー(左)と膜上に形成された回折格子のうちの1つ(左)との間で共振する。膜上の回折格子は、それぞれ個別にテストされる (Image courtesy of Joint Quantum Institute)

デバイスを開発したのは、NIST 物理計測研究所(PML)のJohn Lawall氏らの研究チーム。ここで扱われる力や動きは極めて小さなものですが、それらを測定することは、巨大な重力波観測レーザー干渉計のレーザーやミラーから原子間力顕微鏡の微小なカンチレバー探針に至るまで、さまざまな領域で重要な意味を持つといいます。

通常、この種の研究のための実験では、空洞共振器と2枚のミラーが使用されます。空洞共振器の一方の端にミラーを固定し、他方の端に可動式ミラーを設置。共振器にレーザー光を導入すると光がミラーに反射して行ったり来たりし、それにつれてミラーが光に押されていきます。この結果、可動式ミラーのずれによって2枚のミラー間の距離が変化し、今度はその変化が共振器の共振周波数に影響します。

ほとんどの研究では、屈折率の異なる16~40層の誘電体膜を積層したものが可動式ミラーとして使われており、積層構造の膜厚は数μmになります。大した厚さではないとも思えますが、Lawall氏は「膜を積層すればするほど単位面積当たりの質量が増加する」と指摘。「光の圧力は非常に弱いため、研究を行うには質量を極めて小さくする必要がある」と言います。

そこで研究チームは、従来とはまったく異なるアプローチをとることにしました。チームメンバーの一人 Michael Metcalfe氏は、厳密に設計された回折格子がミラーとして機能することに着目。そのためには、回折格子の隆起部同士の間隔を光の波長より小さくすればよいとしました。今回の場合、その波長はおよそ1560nmとなります。

写真上:今回作製された回折格子。隆起部同士の間隔は700nm程度。各部の間隔と厚さはそれぞれ微妙に異なっており、これが反射率と力学性能に影響する。写真下:回折格子の単体画像。1辺の長さは50μm (Image courtesy of Joint Quantum Institute)


 
研究チームは、機械摩擦によるエネルギー損失が非常に低いことで知られる窒化ケイ素(SiN)の膜を反応性イオンでエッチングすることによって、およそ700nm間隔の回折格子を作製。加工前の膜の反射率は27%程度ですが、完成品では反射率99.6%を実現し、質量もより小さくなるといいます。

最終的には、フィンガ幅と間隔を微妙に変えた回折格子81個を単一の膜上に配置。研究チームは、この方法によって特定の回折格子のデザインに対応する反射率を実験的に決めることができるようになり、膜における特定の力学的モードに対応した回折格子を選択可能になったとします。

この結果実現したのが、従来の積層型リフレクタに比べて質量が1桁以上小さいマイクロメカニカルリフレクタです。機械的品質係数はQ=7.8×105と従来より2桁高く、入射光の反射率は99.6%。回折格子をリフレクタとして用いた例は以前にもありますが、今回の研究はその力学特性と光学特性を綿密に調べた初めてのものであるとします。

「これらのデバイスは、MEMSやオプトメカニカルシステムなど光の圧力を利用する分野にとって非常に重要になるだろう」とLawall氏。

こうしたデバイスは、オプトメカニカルシステムが量子論的限界に近づくときに起こる興味深い現象を探究する上でも役立つ可能性があるといいます。例えば科学者の間では、作製した機械システムを、単原子の基底状態(最も低いエネルギー準位)に等しい状態で動かすといったことに関心が寄せられています。そのためには、システム内の熱雑音を事実上ゼロにすることも必要になりますが、メゾスコピックな状態(マクロとミクロの中間)でこれを実現することは難しい課題です。

「数千万の量子が運動している状態とは対照的に、システムのエネルギー状態をわずか数個の量子運動のレベルまで下げるためには、熱励起を取り除く必要がある」とLawall氏は説明します。こうした状態を強制的に作りだすには、システムを低温保持装置の中に閉じ込めるという方法があります。これには多くの場合、非常な低温が必要となりますが、原子のレーザー冷却に用いられるのとそれ程変わらない技術を利用できるようになるという利点もあります。

「基本的には、力学的運動に対応する過剰な熱エネルギーを取り出し、散乱光を通して光場へと移動させることができる。この結果、デバイス自体の熱エネルギーの量を減らすことができる」とLawall氏は話しています。


発表資料

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