MIT、ナノスケールの「製薬工場」開発。癌細胞に送り込んで、タンパク質医薬をその場で合成

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マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、ナノ粒子を使ってタンパク質を大量合成する技術を開発したとのこと。ナノ粒子を患者の体内に送り込み、患部に到達してからその場でタンパク質医薬を作ることが可能となり、癌などの効果的な治療技術につながるとしています。

紫外線を照射するとタンパク質生産を開始するナノ粒子。写真では緑色蛍光タンパク質が生産されている (Image: Avi Schroeder)

タンパク質を材料とする医薬品は有望な癌治療法として期待されています。しかし通常、タンパク質は体内で分解されてしまうため、薬を患部まで到達させるのが難しいという問題があります。

この問題を回避するため、研究チームは今回「タンパク質工場」として機能する新型のナノ粒子を開発。ナノ粒子が目的地に到達したところで紫外線を照射することにより、タンパク質の合成が始まるようにしたといいます。

論文の筆頭執筆者 Avi Schroeder氏によれば、ナノ粒子は癌細胞を殺す微小なタンパク質の運搬に使うことができ、将来的には腫瘍を破壊する免疫機構を発動させる抗体など、より大きなタンパク質も運べるようになるとのこと。今回の研究は、体内に存在する不活性な原料から新たな化合物を合成するというコンセプトを初めて立証したものであるとします。

研究チームがこのアイデアを考えついたのは、転移した腫瘍を攻撃する新たな方法を検討していたときだったといいます。転移した腫瘍は、死亡率が90%と高いのが特徴です。

研究チームは、生体にみられるタンパク質の生産戦略を模倣するという方針を立てました。細胞内にはタンパク質生産の指示書がDNAの形で保存されており、このDNAがメッセンジャーRNAに転写されます。メッセンジャーRNAはタンパク質の設計図をリボソームと呼ばれる細胞構造へ運搬。リボソームはメッセンジャーRNAの情報を読み取り、それをアミノ酸配列に翻訳。設計図に従ってアミノ酸がつながることでタンパク質が形成されるという仕組みです。

「リボソームは、自然が数十億年かけて作った完璧なタンパク質生産装置。私たちは、有効性が証明済みであるこの装置を利用したいと考えた」とSchroeder氏。

研究チームは、外殻となる脂質、タンパク質の合成に必要なリボソームとアミノ酸、酵素などの混成物から自己組織化される新しいナノ粒子を設計。この混成物には、所望のタンパク質を合成するためのDNA配列も含まれているといいます。

DNAはDMNPEという化学的化合物によって捕捉されます。ただし、DNAとDMNPEの結合は可逆的なものであり、紫外線を浴びるとDMNPEがDNAを放出します。「ナノ粒子に紫外線を当てたときだけDNAが放出されるので、これをタンパク質合成システム発動の引き金として利用できる」とSchroeder氏は説明します。

タンパク質合成ナノ粒子の拡大画像 (Image: Avi Schroeder)

今回の研究では、検出が容易な緑色蛍光タンパク質(GFP)または発光酵素(ルシフェラーゼ)が生産されるようにナノ粒子をプログラミング。マウスを使った実験で、ナノ粒子に紫外線を照射したときにタンパク質の生産が始まることが示されました。

カリフォルニア工科大学の James Heath教授は、「患部に到達するまでのあいだナノ粒子の活性化を止めておくことは、毒性のある薬の副作用を防ぐ助けになる可能性がある」と指摘。ただし、人体に対してこの技術が有効に働くことを実証するには、より多くの実験が必要であるとします。

研究チームは現在、癌治療薬を合成できるナノ粒子について研究しているところ。この種のタンパク質の中には癌細胞だけでなく健康な細胞に対しても毒性を持つものもありますが、今回開発された薬物送達技術を使えば腫瘍部だけでタンパク質の合成が可能になるため、健康な細胞への副作用を避けられると考えられます。

ナノ粒子を活性化させる方法についても研究が進められています。紫外線を照射する方法以外に、酸性度その他ある種の組織や細胞に特有な生物学的条件によってタンパク質生産が起動するといったアプローチが考えられるといいます。


発表資料

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