メリーランド大、CNTの新奇な特性「遠隔ジュール熱」を発見。電流を流しても発熱しない回路が可能に?

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メリーランド大学の研究チームが、カーボンナノチューブ(CNT)に関してこれまで知られていなかった特性を発見。CNTに電流を流しても、ジュール熱によるCNT自体の発熱が起こらず、代わりに近傍にある他の物質の温度だけが上がるという奇妙な現象が確認されたとのこと。研究チームはこの現象を「遠隔ジュール熱」と呼んでおり、まだ完全に仕組みが理解されてはいないものの、動作中に発熱が起こらない高速・省電力のコンピュータ・チップの実現につながる可能性もあるとしています。

カーボンナノチューブの模型。ハチの巣型の炭素原子の結晶が円筒構造を形成している (Image courtesy of The University of Maryland)

論文の筆頭執筆者 Kamal Baloch氏は、今回の発見について「ナノスケールだけで起こる新現象であり、ジュール熱について私たちが巨視的スケールで直感的に知っている事実に反するもの」であると指摘。日常の常識では、トースターでパンを焼くときにはトースターの電熱線が熱くなりますが、CNTで観察された現象は「ト―スターが冷たいままパンだけ焼けるようなもの」だと説明しています。

ジュール熱は、金属線などに電流を流しているときに電線内を移動する電子が金属原子にぶつかって反射し、金属原子が振動することによって発熱が生じる現象です。しかし、CNTの内部を移動する電子は、原子ではない他の何かに反射しているとみられ、どういうわけかCNTに隣接している窒化シリコン(SiN)基板の原子が振動し、発熱するのだといいます。

研究チームがこの現象に気付いたのは、CNTにおけるジュール熱を調べる実験中だったとのこと。CNTは導電性が高いため、電流を流せば金属線と同様にジュール熱を発するはずという予想を立て、ナノスケールでの電気的デバイスの温度分布を測定できる電子熱顕微鏡法による実験を実施。ところが、何回測定しても、SiN基板表面では金属ナノ粒子が溶けるほど温度が上昇するのに、CNT自体は冷たいままという結果を得たのだといいます。

CNTは何故、例え数nmの距離であっても、離れた場所にある基板の原子を振動させることができるのでしょうか? 研究チームは、この現象に関与している「サード・パーティ」が存在すると考えています。それは、電界です。

研究チームの John Cumings氏は「電流を流すことでCNT内の電子が電界を形成しており、基板の原子はこの電界に直接反応していると考えられる」と説明。「基板の温度上昇は、電界を中間媒体とするエネルギー移動が原因であり、CNTの電子が基板の原子にぶつかって反射しているわけではない」と言います。また、この現象はマイクロ波で物体を加熱する電子レンジがそれ自体は熱くならないことと似ているところがありますが、実験ではマイクロ波は発生していないので、物理的にはまったく別のものであるとのこと。

Baloch氏は、遠隔ジュール熱効果とコンピュータ技術が将来、密接な関係を持つようになる可能性についても指摘しています。現在、コンピュータのプロセッサの性能を制約しているのは、動作速度を上げるのが難しくなっているという問題です。動作速度が上がらない理由に、速度を上げると発熱が増大するということがあります。

「排熱を効果的に行う方法がみつかれば、コンピュータの速度は上がります。今回の実験でのCNTのように、熱の形でのエネルギー損失がデバイス内部で起こらないトランジスタを開発できれば、画期的なことです。熱伝搬に関する新しいメカニズムによって、熱伝導体と電気伝導体を分離することが工学的に可能になるでしょう。これら2つの部品に同じ材料・同じスペースを使う必要がなくなり、最適な特性を選択できるというわけです」(Baloch氏)

今のところ、この現象のまわりには謎めいた雰囲気が漂っています。それが観察されているのはナノスケールの場合だけであり、しかも炭素材料についてだけです。研究チームの次の課題は、他の材料でも遠隔ジュール熱効果が起こることがあるかどうか、そして、もしそうであればそうした材料はどんな特性を持っているのかを確かめることであるといいます。「CNT内を流れる電流からのエネルギーをSiNが吸収できることは分かったが、他の半導体材料や絶縁材料についてもテストしてみたい」とCumings氏。「この現象がどのように作用しているのかを完全に理解できれば、統合的な熱マネジメントを伴うナノエレクトロニクスの新時代が開ける」と話しています。


発表資料

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