MIT、高分子マイクロ流体チップの量産技術を開発

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マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが、マイクロ流体デバイスの量産技術を開発中とのこと。材料にはポリマーを用いており、医療診断用途に使用可能な高精度デバイスの低コスト量産化をめざすとしています。

高分子マイクロ製造技術センターで開発された製造装置で作製されたマイクロ流体チップ (Photo: Melinda Hale)

マイクロ流体デバイスは、チップ表面に形成した微細な流路に血液などの流体を流すことにより、病気の診断や毒物・病原体などの検出を行うことができます。迅速・安価で持ち運び可能な診断ツールとしての利用が期待されていますが、そのほとんどはまだ研究室での試作レベルであり、量産化して市場投入できる段階には至っていません。

MIT機械工学者で高分子マイクロ製造技術センター長の David Hardt氏が率いる学際研究チームでは、工場での大量生産が可能なマイクロ流体チップ製造技術の開発を進めています。工場環境下でのポリマーの挙動分析、ポリマーチップの量産向け製造装置の開発、サブミクロンスケールでのチップ品質管理プロセスの設計などを行っており、同時に製造コストの最小化にも取り組んでいるとのこと。

「私たちはデバイス数百万個を数セントの単価で製造することをめざしています」とHardt氏。「プラスチックの材料コストはゼロに近いので、製造工程でのコストを削減しなければなりません」

マイクロ流体デバイスの研究開発では、多くの場合、半導体用の製造装置が使われていますが、こうした装置(ナノ精度のインデント・接合装置など)は極めて高額であり、また、高分子材料の加工用には設計されていません。そこで研究チームは、半導体用の装置を使う代わりに、ポリマーの加工に適した安価な装置を設計する方法を探したといいます。

研究チームが開発した卓上型の製造装置。量産レベルのレートでマイクロ流体チップを作製できる (Photo: Nadega Zarrouati)

研究チームが注目したのは、マイクロエンボス加工と呼ばれるインプリンティング技術でした。これは、ポリマーに熱をかけてから微細な流路パターンを押し付ける方法です。

既製の装置を用いた実験の結果、エンボス加工プロセスの欠点も分かったといいます。冷却したチップから型押しツールを引き離すときに、多くのプラスチックに亀裂が生じるのです。

この欠点を防ぐために、研究チームは冷えたポリマーと型押しツールとの相互作用を研究。2つの間に働く機械的な力を測定し、その測定結果を用いてポリマーの「くっつきやすさ」を最小化するような特殊設計のエンボス加工装置を作製しました。この装置によって、非常に低コストで高速・精密なチップ製造ができたとのこと。

マイクロ流体チップ用製造装置の作製に加え、研究チームは新しい品質管理技術の開発も行いました。目視による検査ができる自動車部品などと違い、マイクロ流体チップの微小な造作には高分解能の顕微鏡を使わないと見えない部分もあります。1個のチップ上のすべての造作をチェックする作業には多大な時間を要します。

研究チームは、チップ製造プロセスの健全性を測定するために高速で信頼性の高い方法を考案しました。チップ上に型押しされた流路をすべてチェックする代わりに、チップパターンに微小な「×印」を加えるというものです。この×印は他の部分よりもエンボス加工が難しくなるように設計されているため、×印がシャープに形成されていることが、チップの残りの部分の精度が保たれていることの指標になるといいます。

研究チームの最終目標は、製造プロセスの組み立て方を変えることにあるとします。通常、量産プロセスは段階的に立ちあげられ、時間とともに調整されて歩留まりが向上していきます。半導体産業はこうした反復プロセスによる製造技術の代表例であるとHardt氏は言います。

「半導体の製造プロセスは今極めて難しいものになっていますが、これは長い年月をかけて少しずつ改良が加えられてきた結果なのです」とHardt氏。「私たちの研究のねらいは、これを省略し、メーカーがすべての問題を特定するのを待たなくても製品を試作できるようにすることにあります」

研究チームは現在、製品が自動的にテストされる「自己修正型工場」の設計方法について研究しているとのこと。これは、製品に欠陥がある場合、それに呼応して製造プロセスが変化し、プロセスを修正するために装置設定が自動調整されるシステムであるといいます。その一例として、研究チームが取り組んでいるのが、マイクロ流体チップ内における流体の流れ方の評価法です。チップ内で2つの流体が混合されるポイントはどの製品でも同一であるべきなので、混合ポイントがチップ間でずれる場合には装置を調整してずれを正すアルゴリズムが開発されているといいます。

ドイツ・イエナのラボ・オン・チップ製造会社Microfluidic ChipShopの設立者 Holger Becker氏は、この研究が「マイクロ流体デバイスの量産化に関わる様々なプロセスを理解する上で重要な役割を果たす」とコメントしています。

「大学でのマイクロ流体デバイス研究のほとんどはアプリケーション面に集中しており、産業化に適合した実用的な製造技術の研究は残念ながらほとんど行われていません」とBecker氏。「Hardt博士のチームは、個々の技術ではなく、すべての工程と製造プロセス全体に目を向ける非常に総合的なアプローチをとっています」。また、Hardt氏は「自分たちの研究について産業界に知ってほしいと考える段階に来ている」と話しています。


発表資料

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