米ローレンス・バークレー国立研究所が、インドにおける陸上風力発電の導入ポテンシャル評価を報告しています。従来のインド政府による公式見積もり値120GWより20~30倍多い風力発電が潜在的に導入可能という試算となっており、深刻で慢性的な電力不足を抱えているインドでの再生可能エネルギー戦略に影響を与えることになりそうです。

インドでは、風力発電に利用可能な土地の95%以上が南部と西部の5つの州に集中している (Image courtesy of Lawrence Berkeley National Laboratory)
報告書の筆頭著者 Amol Phadke氏は、「すでに15GWの導入量があり急速に拡大を続ける風力発電が、インドで商用化されている再生可能エネルギーの中で最もコスト効率が高く成熟した技術であること」に今回の研究の重要性があるとします。Phadke氏によれば、今やインドの風力発電のコストは輸入石炭・天然ガスによる火力発電に並ぶレベルとなっており、エネルギー保全と環境問題にコスト効率良く取り組んでいく上で風力が大きな役割を果たし得るといいます。
従来の公式見積もり値120GWをすべて導入した場合でも、風力発電によって賄われるインドの電力需要は2022年に8%程度、2032年に5%程度にとどまると予想されます。一方、今回のバークレー研究所の調査では、風力発電タービンの設置高を地上80mに設定した場合の導入ポテンシャルを2006GW、地上120mに設定した場合には3121GWと概算しています。
Phadke氏らは、この研究結果について公式・非公式の場でインド政府当局と議論を続けており、積極的な反応を得ているとのこと。所轄当局であるインド新・再生可能エネルギー省(MNRE)は、導入ポテンシャルの概算に関するいくつかの問題や風力発電のインテグレーションについて、バークレー研究所と協力するという覚書を交わしているといいます。
今回の報告書の共同執筆者で米国アイトロン 上級コンサルタントの Ranjit Bharvirkar氏は、「インドの風力発電のポテンシャル再評価を行った動機の1つに、最近行われた米国と中国での風力発電ポテンシャル再評価がある」とします。Bharvirkar氏によると、中国の再評価ではポテンシャルが従来見積もりの10倍に跳ね上がり、米国の再評価でも導入量50%増・発電量400%増と大幅に増加する結果になったとのこと。タービンが高効率化し、設置位置がより高くなるなど風力発電の技術が向上し、風車の配置技術も進歩したことが、見積もり増加の主な理由です。
102GWという従来のインドの見積もり値は、風の強い土地の中で風力発電可能な場所は2%しかないという仮定に基づいていますが、この仮定自体は土地の利用性評価に基づくものではないといいます。研究チームは、地勢と土地利用に関するGIS(geographic information system)の公開データを使って、土地利用可能性のシステマチックな評価を実施。その結果、風力発電に利用可能な土地が以前の見積もりよりも多くあると分かったことが、今回高いポテンシャルが見積もられた主要な理由であるとします。
今回の研究では、風況の悪い土地、角度が20°を超える傾斜地、海抜1500m超の高地、その他風力発電に適さない地域(森林・海・都市など)は調査対象から除外。地上80m、100m、120mにおける風速については、再生可能エネルギー関連の情報サービス会社3TIERから取得した既存データを使用したとのこと。
また、報告書によると、高さ80mでの設備利用率が25%を超える風力発電に適した土地(発電出力543GW程度)の総面積は約1629km2。これはインドの国土全体の0.05%に相当しますが、風力発電所においてタービンや関連設備による占有面積は通常3%程度と低く、残りの面積はその他の用途に利用できるため、この値は大きな面積とは言えないとしています。報告書全文は、こちらからダウンロード可能です。
発表資料
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