PNNL、珪藻を遺伝子操作して蛍光バイオセンサ作製

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米パシフィック・ノースウェスト国立研究所(PNNL)が、海洋性微細藻類の一種である珪藻に遺伝子操作で蛍光タンパク質を組み込み、水中で特定の物質に反応して光るバイオセンサを開発したとのこと。化学物質検出、触媒、環境浄化などへの応用が期待できるとしています。

海洋性微細藻類、珪藻の一種 Thalassiosira pseudonana の写真。横および真上からみたところ (Photo courtesy of Nils Kroger, Universitat Regensburg)

「微細なガラス細工のような珪藻のシリカ殻は長らく科学者の興味を引いてきた」とPNNL海洋科学研究所の分子生物学者 Kate Marshall氏。今回研究チームが開発したバイオセンサによって、珪藻はますます魅力的な研究対象になるといいます。新しいシリカ系合成材料の開発につながる可能性があるからです。

珪藻は、植物性プランクトンの塊(珪藻土)をつくる微小な藻類としてよく知られており、海洋生物の食物連鎖を支えている植物です。しかし、材料科学者の間では、別の理由から珪藻に関心が寄せられています。珪藻の微細なシリカ殻を作り上げている複雑で高度な規則的パターンに注目が集まっているのです。この極小のガラスかごが、センシング、触媒、環境浄化など多くの分野の問題を解くことになると研究者たちは考えているといいます。

PNNLの Guri Roesijadi氏は、遺伝子操作によって珪藻の殻にタンパク質を挿入できることを明らかした他の研究グループの先行研究に着想を得て、今回のバイオセンサを考案。この先行研究を出発点として、Marshall氏とともに蛍光タンパク質を使った珪藻のバイオセンサ化に着手。特に、他の化学物質を用いなくても目標物質の検出ができる試薬不要のバイオセンサの作製をめざしました。

テストケースとして、研究チームは、帽子を入れる丸い箱のような形状の珪藻 Thalassiosira pseudonanaに対して、バイオセンサ化のための遺伝子を挿入。この遺伝子によって、珪藻がバイオセンサとして機能するタンパク質を生成できるようにしました。

バイオセンサの働きを担うのはリボース結合タンパク質と呼ばれる物質で、その名の通り、リボース糖と結合する性質を持っています。どのリボース結合タンパク質の隣にも、それぞれ他の2種類のタンパク質が配置されます。そのうちの一方は青色に発光、他方は黄色に発光するものであり、この3つのタンパク質の複合体がシリカ殻に結合した状態で珪藻が発光するといいます。

珪藻を遺伝子操作して作製したバイオセンサ。左は蛍光を発していない遺伝子操作済みの珪藻。中央は同じ珪藻が青色の蛍光を発しているところ。右はリボースが存在しないとき。蛍光共鳴エネルギー移動によって黄色の蛍光を発している (Image courtesy of Pacific Northwest National Laboratory)

リボースが存在しないところでは、2つの蛍光タンパク質が互いに近接した状態となります。2つのタンパク質が十分に近接しているため、青色の蛍光タンパク質のエネルギーは隣にある黄色の蛍光タンパク質へ容易に移動することができます。このプロセスは蛍光共鳴エネルギー移動(FRET: fluorescence resonance energy transfer)と呼ばれており、青色の蛍光タンパク質が黄色の蛍光タンパク質を光で照らすようなものです。この結果、黄色の蛍光が生じます。

しかし、リボースが珪藻に結合すると、リボース結合タンパク質の形状に変化が起こり、青色と黄色の蛍光タンパク質が分離。黄色蛍光タンパク質を照らす青色蛍光タンパク質の光量は減少します。このためバイオセンサは、より青く光るようになります。

エネルギーを与えられているときには、珪藻バイオセンサに結合するリボースがあってもなくても、バイオセンサは常にある程度青色または黄色に発光します。青色と黄色の光がそれぞれどれだけあるかという違いが重要になります。

研究チームは、フォトンセンサを備えた蛍光顕微鏡を使って、2種類の蛍光タンパク質それぞれが放つ固有の波長の光の強度を測定。2種類の波長の比率を計算することによって、珪藻バイオセンサにリボースが接触しているかどうか、さらにその程度の量のリボースが存在しているかを判定できるようにしたといいます。

また、研究チームは、生体の珪藻から取り去った殻を単体でバイオセンサとして機能させることにも成功したとのこと。これにより、バイオセンサの使用方法や使用場所の柔軟性が広がるとしています。この研究に資金提供している米国海軍研究局(ONR)では、珪藻のシリカ殻を改造したバイオセンサが海で爆発物などを検知するためにも利用できると考えているといいます。


発表資料

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