米アルゴンヌ国立研究所が、ナノ結晶ダイヤモンド薄膜をグラフェンや窒化ガリウム(GaN)と組み合わせたときの熱特性について報告。新たに発見された特性を利用することで、半導体集積回路の熱量(thermal budget)を低減し、デバイス性能を大幅に向上できる可能性があるとしています。
電子デバイスの微細化による効率向上は過去数十年間続いてきましたが、最近ではこの技術進歩が「熱的ボトルネック」に突き当たっているとアルゴンヌ研究所のナノ科学者 Anirudha Sumant氏は指摘します。
熱的ボトルネックとは、デバイス内に生じる過剰な熱が性能に悪影響を及ぼすという問題です。「電子デバイスから熱を吸い出す画期的な方法を見つけない限り、このボトルネックから抜け出すことはできない」とSumant氏は言います。
ダイヤモンド薄膜は非常に優れた熱特性を持っています。このため、様々な半導体材料に結合可能なヒートシンクとしてダイヤモンド薄膜を利用することが検討されています。しかし、ダイヤモンド薄膜の成膜温度が通常800℃超と高いことが、このアプローチの実現性を制限する要因となっていました。
「重要なのは、ダイヤモンド薄膜をできるかぎり低い温度で形成すること。もしも400℃で成膜できれば、ダイヤモンド薄膜を幅広い種類の半導体材料と結合させることが可能になる」とSumant氏。
研究チームは、新たに開発したダイヤモンド薄膜の成膜プロセスを用いて、成膜温度を400℃近くまで低減。同時に、結晶粒径を制御してダイヤモンドの熱特性を調整することに成功しました。これにより、グラフェンやGaNといった重要な材料とダイヤモンドを組み合わせることが可能になったとします。
通常グラフェンデバイスの作製に使用されるシリコンや酸化ケイ素などの材料と比べ、ダイヤモンドは熱伝導特性が非常に優れています。このため、ダイヤモンド上に形成されたグラフェンデバイスは熱をよく除去でき、より高い電流密度を維持できるといいます。論文によると、従来のシリコン/酸化ケイ素基板を用いた場合のグラフェンの電流密度が1μA/nm2のオーダーであるのに対して、ダイヤモンド上のグラフェンでは、室内環境でも18μA/nm2まで増加したとのこと。
Sumant氏は、同じ技術を使って、高出力LED材料として広く用いられているGaNとダイヤモンド薄膜を組み合わせる研究も行っています。研究チームは、GaN基板上に膜厚300nmでダイヤモンド薄膜を成膜した後、熱的性能が著しく向上していることを発見。集積回路の内部ではわずかな温度差があるだけで性能に変化が生じるため、この研究結果は注目に値するとしています。
これらの実験に共通して言えるのは、熱を効果的に消散させつつエネルギー消費を減らす新しい方法の発見であるということ。半導体回路のこれまでの限界を克服し、次世代のエレクトロニクスを追求する上で、こうしたプロセス技術は産業界にとって重要であるとSumant氏は言います。
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