バークレー研究所、体内に取り込まれたプルトニウムなどアクチノイド系汚染物質の除去剤を開発中

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米ローレンス・バークレー国立研究所が、体内に取り込まれたプルトニウムなどの放射性物質を除去する化学薬品の開発しているとのこと。すでに2種類の有望な候補物質を特定しており、臨床試験に向けた研究が進められています。

アクチノイドを包み込める金属イオン封鎖剤、八座ヒドロキシピリドン型配位子のモデル。金色の球体で表したプルトニウムがカゴ状の複合体に結合し、体外に排出される (image by Zosia Rostomian, Berkeley Lab)

ニューヨークタイムズなどが報じたところによると、福島原発事故直後、日本政府は首都圏の住民3600万人の避難・退避を検討したとされます。こうしたドラスティックな対応が検討されたことは、ひとたび原発事故や核テロによる大規模な放射線被ばくが起これば、広範な放射能汚染に対して旧式で極めて限定的な対処法しか取れないという厳しい現実を物語っています。現在利用できる唯一の除染用化学薬品は、冷戦時代に開発されたジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)という化合物ですが、これを人体に用いるには静脈注射が必要。また、除去できる物質も、健康に重大な危害を及ぼすアクチノイド系列(元素周期表上のアクチニウムからローレンチウムまでの元素)のうちの一部に限られます。

こうした中、バークレー研究所で開発が進んでいるのは、DTPAに替わるより効果的な除染剤であるとのこと。プルトニウム、アメリシウム、キュリウム、ウラン、ネプツニウムなど、原発や核兵器による放射線被ばくの原因となる多くの種類のアクチノイドをターゲットとし、大規模な汚染に迅速に対応するため、錠剤の形で経口投与が可能なものを目指すとしています。被ばくレベルや治療開始までにかかる時間にもよりますが、これらの錠剤を用いることで24時間以内にアクチノイド系汚染物質の90%程度を体外に排出可能。1日1錠を2週間服用することで、すべてのアクチノイドをほぼ完全に除去できるようにするといいます。

「原子力の利用が拡大し、核兵器使用の危険性が高まる中で、大量の人間がアクチノイドによる汚染を受けた場合の効果的治療法を確立することは喫緊の課題」と研究チームの化学者 Rebecca Abergel氏は言います。「私たちは今、アクチノイドに特化した除染剤が臨床試験に移せる段階にあることを実証しているところです」

バークレー研究所グレン・T・シーボーグセンター バイオアクチノイド・グループ長のRebecca Abergel氏 (Photo by Roy Kaltschmidt, Berkeley Lab)

Abergel氏らの研究は、バークレー研究所とカリフォルニア大学バークレー校が中心となって20年前から進めているプロジェクトの一部。同プロジェクトの主要目的は、アクチノイドを微小なカゴ状の化学構造内に包んで体外に運び出すことができる金属イオン封鎖剤を特定すること。初期の研究でフォーカスされたのは、アルファ粒子を放射するアクチノイドであるプルトニウムと、カニのハサミのような分子構造で鉄などの金属イオンと特異的に結合する天然キレートだったといいます。

「プルトニウム(IV)と鉄(III)には生化学上の類似性があるため、金属イオン封鎖剤の開発では、親鉄剤に含まれるキレーティング・ユニットがモデルになった」とプロジェクトを開始した化学者 Ken Raymond氏は話します。親鉄剤は、バクテリアが生成する小さな分子であり、鉄を抽出・可溶化する働きがあります。「生物を模したアプローチによって設計されたヒドロキシピリドン型の多座配位子は、アクチノイドへの親和性、選択性と効率という点で類のないものです」とRaymond氏。

Abergel氏らのチームは、これまでに有望なヒドロキシピリドン型配位子(HOPO)を2種類開発しています。そのうちの1つはキレート効果がある腕を4本持つ四座配位子、もう1つは腕を8本持つ八座配位子です。この場合の「腕」とは、アクチノイドとの共有結合に使える電子対を持った原子を意味します。

Abergel氏によれば、この2つの配位子については、5kgレベルの大量合成法やGMPガイドライン(医薬品の品質管理・製造管理基準)に適合した分析方法などを確立できたことによって、臨床前段階の研究が進んだとのこと。動物実験とヒトの細胞株を使った詳細な研究も行われ、これらのHOPOの高い効果と試験投与量での無毒性が確認できたとします。

単体の八座HOPOはアクチノイド複合体を形成し、より完全なアクチノイド排出効果を生みます。一方、四座HOPOは生体膜を透過しやすく、体内の狙った部位に到達しやすいという特徴があるとのこと。「どちらの特徴も、放射線事故時の緊急使用には必要なものであり、さらに開発を進めるべきもの」とAbergel氏は言います。

Abergel氏によれば、これら2つの候補物質については、すでに基礎的な研究開発フェーズを完了。研究チームは、米国食品医薬品局(FDA)とともに、臨床試験に移行するために必要となる補足データを決定する手続きに入っているとしています。通常、この段階から民間製薬会社が開発に関与することになりますが、今回のケースのようにできれば使用されないことが望ましい薬品については、民間からの出資者を集めるのが難しい面もあります。Abergel氏は「FDAのプロセスに沿って研究を進めることで、民間製薬会社も参加しやすくなるはず」と話しています。


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