IBM、1分子内部での電荷分布の画像化に成功

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IBMが、世界で初めて分子1個の内部での電荷分布を画像化することに成功したとのこと。この技術により、単分子スイッチングや原子分子間の結合形成などについての基礎科学的な知見を深めることができ、太陽電池やエネルギー貯蔵、分子コンピュータデバイスなどの応用分野での展開が期待できるとしています。

1分子内の電荷分布を測定し3D画像化 (Credit: IBM Research - Zurich)

研究チームは、原子間力顕微鏡の一種であるケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)を使って、低温・高真空の環境下で単分子内の電荷分布画像化に成功。「ネイチャー・ナノテクノロジー」電子版(2012年2月26日号)に論文が掲載されています。

今回の成果について、カリフォルニア大学の物理学教授 Michael Crommie氏は「個々の分子内部の電荷の分布そのものを直接測定できるという重要な新技術を実証するもの。こうした電荷分布を理解することは、異なった環境下で分子がどのように働くかを理解する上で重要であり、物理学、化学、生物学分野には今後、特に大きな影響を与えると予想される」と評価。IBMは、新技術によって分子についての完全な情報が提供されるとし、「人の体と健康状態についての完全な情報を取得できるようにしたX線、MRI、超音波検査などの医療用イメージング技術を想起させる」とコメントしています。

この技術は電荷移動錯体(charge-transfer complexes)における電荷の分離・輸送の研究にも利用できる可能性があります。複数の分子から構成される電荷移動錯体は、コンピュータ、エネルギー貯蔵、太陽電池などへの応用が期待されている材料。特に、分子サイズのトランジスタを設計するために今回の技術が役立つと考えられ、センサや携帯電話からスーパーコンピュータまで、幅広いデバイスの低消費電力化が可能になるとしています。

KPFMの測定原理 (Credit: IBM Research - Zurich)

導電性の試料上に走査プローブの先端を置くと、プローブ先端と試料の間の電位差によって電界が生じます。KPFMでは、電界を補償する電圧を印加することによって、この電位差を測定します。従って、KPFMは分子の電荷を直接測定しているのではなく、電荷によって生じた電界を測定していることになります。分子内で帯電している領域ではより強い電界が生じるため、KPFMの信号はより大きくなります。また、逆帯電している領域では電界の方向が逆になるため、異なるコントラストが得られます。顕微鏡画像では、これが明るい領域と暗い領域(または赤・青の色の違い)として表れます。

IBMが開発した単分子論理スイッチで使われているナフタロシアニン(十字架型の対称構造を持つ有機分子)が、この研究のための理想的な研究対象になったといいます。ナフタロシアニン分子の中心部には対向する2つの水素原子があり、そのサイズはわずか2nm。これらの水素原子は、パルス電圧を印加することによって、2つの異なる状態のあいだでスイッチング制御することが可能です。互変異性化と呼ばれるこの効果は分子内の電荷分布に影響を及ぼします。2つの水素原子の位置が入れ替わるのに伴い、向かい合って伸びた分子の脚間で電荷分布が再配分されるのです。

研究チームは、KPFMを用いて、この2つの状態に対応する電荷分布を画像化することを試みました。分子スケール以下の分解能を実現するため、数日間続く実験中、高いレベルの熱的・機械的安定性と原子レベルの測定精度を維持する必要があったといいます。

プローブ先端に一酸化炭素分子1個を添加することによって、分解能が向上しました。プローブ先端をこのように修飾するによって、分子の化学構造をAFMで解像できることは、2009年の研究で明らかにされたとのこと。また、今回の実験結果は、第一原理による密度汎関数理論計算でも確認されたとしています。


発表資料

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