米アイダホ国立研究所(INL)が、ゼラチンを含ませた泡を使って、建物の壁や天井などから放射性物質を効果的に除染する技術を開発したとのこと。従来の除染方法に比べて処理時間が短く低コストで済み、作業員の被ばく量も低減できるとしています。
INLのように核物質を扱う研究施設には装置や建物の汚染がつきものですが、これらの除染は非常にコストがかかる作業となります。放射性微粒子が建物の表面にこびりついたり、微小な孔や割れ目に入り込んだりするため、除去は困難を極めるからです。過去50年間、汚染された物質や構造物は解体して埋めるか、隔離して保管しなければなりませんでした。こうした処理には多大なコストと膨大な保管場所が必要であり、作業員の被ばくリスクも伴います。
除染方法は他にもありますが、それらは労働集約的なものであり、表面下に入り込んだ汚染物質の除去には効果が薄く、除染後には大量の廃棄物が出ます。また、除染剤についても、壁や天井などで効果的に使用することが難しいという問題がありました。
そこでINLの研究チームは、垂直な壁面や天井などに数時間付着していられる硬さのある除染剤の開発に着手。強酸性の成分による酸化層の分解能力や、磁石のように放射性物質を吸着する特性などを除染用の泡に付与することができる物質を探した結果、ついに見つけたのが昔からある「ゼラチン」だったといいます。
「最初に分かったのは、pHを下げると泡としての性質が犠牲になるということでした」と研究メンバーのRick Demmer氏。「そこで泡を安定させるための材料を片っ端から試してみました。卵のタンパクとか、石鹸の成分とか、いろいろです」
実験に使ったゼラチンは、Demmer氏がINLの食堂から借りてきたもので、チェリーの香りがついていたとのこと。
ゼラチンによって固まった泡が汚染された表面にくっつき、その間に放射性微粒子が泡に吸着され、取り込まれます。20分から1時間後、泡は表面から洗い流すか吸い取るかして取り除くことができます。
この方法では、数時間程度の処理によって、表面の汚染物質を最大90%減らすことができるといいます。表面に無数の孔があり、表面下まで微粒子が入り込んでいるような場合に対応するため、ゼラチン泡での除染に加えて第2工程として特殊な粘土材料を用いる方法も開発されています。粘土は孔や割れ目に染み込み、数日から数週間かけて汚染物質を表面下から引き出します。これにより汚染が99%低減できるとしています。
除去作業後の粘土は80%収縮し、乾燥させることで最終廃棄物を大幅に低減可能。様々な種類の放射性物質や有害金属に対して用いることができ、壁面、天井、器具・装置にみられる不規則な形状の表面などの除染に適合します。また、コンクリート、軽量コンクリートブロック、花こう岩、れんが、タイル、アスファルト、木材、大理石、ガラス、鋼鉄など多様な材料に使用することができます。
この技術は、ニューハンプシャー州の企業エンバイロメンタル・オルタナティブス(EAI)から「Radリリース」という名前でライセンス化されており、2011年9月には、INLのホットセル・マニピュレータの除染に実際にRadリリースが使用されました。このときは、従来20時間かかっていた作業が2時間に短縮され、作業後の廃棄物の量も20ガロンから2ガロン未満に低減できたといいます。
発表資料
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