「低線量放射線でのLNT仮説」成り立たない可能性示唆。バークレー研究所が新たな証拠を報告

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米ローレンスバークレー国立研究所の研究チームが、低線量の電離放射線リスクに関する新たな知見を報告しています。研究で得られた証拠は、「放射線による生体へのダメージには閾値がなく線量に比例して直線的に増大する」というLNT仮説(the linear-no-threshold hypothesis)が低線量では成り立たない可能性を示唆するものであるといいます。

放射線に対する細胞のDNA損傷反応を画像化したもの。放射線を浴びてから1.5分後、RIFのサイズは小さく強度は弱い。30分後、損傷部位は集まってクラスター化して大きく強いRIFとなっている。この像がDNA修復センターを反映している可能性がある (Image courtesy of Lawrence Berkeley National Laboratory)

「今回のデータが示しているのは、低線量の電離放射線に対しては、DNAの修復機構が高線量のときよりも良好に働くということです」とバークレー研究所の乳癌研究者 Mina Bissell氏は話しています。「どんな量の電離放射線であっても生体に対して有害であり、追加的な効果があるということが広く信じられていますが、DNA損傷反応における非線形性は、この推定に疑問を投げかけるものです」

Bissell氏と共同研究者の生物物理学者 Sylvain Costes氏は、低速度撮影による生体イメージング法を使って、低線量放射線に対するDNA損傷反応の特性を時間と線量の両面から同時に調査しました。特性化には、切断されたDNAらせんを修復するタンパク質の集合体である「放射線誘発フォーカス(RIF: radiation induced foci)」の個数を測定するという手法が用いられています。

研究チームが立てている仮説は、DNA二重鎖の破損が従来考えられてきたような静的な存在ではなく、線量が増加するにつれて細胞核の特定の領域へ急速に集合してクラスター化するというものです。このようなクラスターができる領域は、DNA修復センターと呼ばれます。

研究チームによると、二重鎖の破損部位が最大2μmという比較的長い距離を移動してクラスター化することで、RIFの活性は強まり、個数は減るといいます。例えば、線量1グレイあたりのRIFの個数についてみると、0.1グレイ被ばく後のRIFが64個であったのに対して、2グレイ被ばく後に観察されたRIFは15個でした(1グレイは、ヒトの生体組織1kgが吸収する1ジュールの電離放射線エネルギーに相当。通常の乳房X線撮影による被ばく量はおよそ0.01グレイ)。

DNA修復センターはおそらく進化の産物であり、理にかなっているとCostes氏は言います。ヒトが進化してきた環境では、電離放射線レベルは非常に低いものだっため、複数の二重鎖が同時に破損する確率は低く抑えられていたからです。DNA修復センターは、このような頻度の少ない損傷に最適化されているようにみえます。

「例えて言えば、1台の故障車を直すために修理道具がそろっているガレージに車を運ぶようなものです。限られたリソースしかない状態で、あちこちばらばらな場所に運ぶよりも合理的なわけです」

しかし、複数の二重鎖が同時に破損するような高い電離放射線に細胞がさらされると、DNA修復センターは容量オーバーになり、破損した二重鎖が誤って再結合されることが多くなります。

「たくさんの故障車が同じガレージに一度にもちこまれたら修理の品質は落ちるでしょう。それと同じことです」とCostes氏。

電離放射線被ばくと癌の原因であるDNA損傷との相関性ははっきり確立されていますが、発癌リスクの基準は第二次大戦時に日本に投下された原爆での生存者から収集したデータを基にしています。低線量被ばくにおけるLNT仮説は、高線量被ばくによる発癌リスクからの推定によって作られたものであり、この推定はいくつかの仮定や物理法則などに基づく線形的なあてはめによって行われています。

原爆の生存者からのデータからいえるのは、およそ0.1グレイ以上の線量ではLNT仮説が妥当であるということであり、それより低い値については不明であるとCostes氏は言います。

ただし、従来の研究が、主に線維芽細胞について行われてきたのに対して、今回の研究は上皮細胞、とくにMCF10Aという不死化したヒト乳腺細胞が対象となっています。MCF10Aでは、放射線被ばくがない場合でも線維芽細胞と比べて(放射線以外の影響も含む)RIF形成のバックグラウンドが大きいとされるため、バックグラウンドを補正するために数学的モデリングを行っているといいます。

研究チームは、線維芽細胞でも上皮細胞と同様の結果が得られるかどうかなどについて、さらに調査を進めているとのこと。二重鎖破損のクラスター化がランダムな合体の結果なのか、それともDNA修復センターまで二重鎖破損を運ぶ何らかの運搬機構が存在するのかといったことも調べたいとしています。

また、DNA損傷のより精密な特性化を行うために、マイクロ流体デバイスとX線マイクロビームを一体化した特殊なラボ・オン・チップの開発にも取り組んでおり、多くの被験者からのサンプルを分析することで、放射線に対するDNA損傷の感受性に個人差がある理由などを明らかにしたいといいます。


発表資料

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「「低線量放射線でのLNT仮説」成り立たない可能性示唆。バークレー研究所が新たな証拠を報告」への2件のフィードバック

  1. 原文が長かったので、途中かなり端折って訳しています。
    興味をもたれた方は発表資料をごらんください。

  2. 私も、日本で一番原発の多い福井県で、20年近く反対を唱えてきました。世間も少しわかってきやようですが、力は弱いようです。現実的に対応し、よい方にむかってやっていきます。

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